〔国際協力情報〕
第6回北京国際リハビリテーションフォーラム参加記
研究所 運動機能系障害研究部 緒方 徹


 北京国際リハビリテーションフォーラム(10月22日〜23日、中国国家会議場)は中国リハビリテーション研究センターによって毎年開催されており、今年で6回目となる。今回は国リハも共催者として関わっており、センターからは加藤誠志研究所長と筆者が参加した。会場となった中国国家会議場は北京の北側に位置し、近くにはオリンピックでおなじみの「鳥の巣」や競泳の会場となった「ウォーターキューブ」があるちょっとした観光地だが、今回は残念ながら散策する時間はなかった。

 フォーラムでは各障害の臨床的発表からリハビリ研究施設の運営方法にいたるまで非常に多岐に渡る分野に関する発表が盛り込まれており、その中で筆者は「脊椎・脊髄疾患のリハビリテーション」の分科会に参加し発表を行った。発表の多くは中国語のスライドであったため内容の詳細は不明な点があるものの、外傷や脊椎変形に対する外科的治療、疼痛制御の臨床的な報告がなされていた。筆者は脊髄損傷の予後予測の一手法としての末梢血液バイオマーカーの発表を行った。フォーラムの主催者である中国リハビリテーション研究センターでは年間に200例を超える脊髄損傷患者を受け入れていることもあって、こうした簡便な方法で測定可能な予後予測因子についてスタッフからいくつかの質問を受けた。また、このセッションでは筆者の他にも海外演者としてBoston Medical CenterからS. Williams博士が参加し、脊髄損傷者に対する部分免荷式歩行訓練の北米における多施設研究の概要を報告した。この分野は国リハでも歩行訓練ロボット「Lokomat」を用いた研究を行っており、脊髄損傷者の歩行再建研究の中での重要性を改めて認識する機会であった。さらに中国リハセンターでも一昨年からこのLokomatを導入しており、今回のフォーラムでもその訓練報告がなされた。共通のテーマと同じ訓練機器を共有する点から、今後両施設の研究交流の契機となることも期待される。そして、閉会式では共催者として加藤所長も挨拶に立ち、今後このフォーラムやリハビリテーション医学が取り組むべき事としてゲノム情報を含めたリハビリ体系の構築という課題を提言した。

 筆者自身、この北京国際リハビリテーションフォーラムへの参加は第4回に引き続いて2年ぶり2回目の参加となった。驚くべきことは学会の規模が一段と大きくなり(約1000人の参加とのことだった)、また会場もホテルの2フロアを借りていた2年前に比べ、今年は巨大なコンベンションセンターで開催されていたことである。参加者がどの程度中国の国内から集まっているかは定かではないが、発表演題を見る限り複数の都市から参加があり、また海外からも日本だけでなく北米・欧州・オセアニアと各エリアからの参加者が集まっていた。学会の運営が全て中国リハセンターのスタッフによって行われている、という事実もまた驚くべきことであった。受け付けはもちろんのこと、発表機材の運用、通訳、海外発表者の対応にいたるまで職員が行っており、おそらくは中国リハセンターの年間行事としても最大規模のイベントなのだろうと察する。ちなみにフォーラムの翌日に学会運営を統括していた中国リハセンターの董浩副所長と話をする機会があったが、やはり肩の荷が下りたと安堵の表情であった。短期間で拡大していく学会規模は中国社会そのものの発展と重なる印象もうけるが、実際には限られた職員数の中でやりくりをする現場スタッフの尽力にも感銘を受ける機会であった。

 フォーラムの翌日には、これも筆者にとっては2度目になるが加藤所長とともに中国リハセンターを見学する機会を得た。脊髄損傷に関するトピックスとして、細胞移植治療の準備・水中運動療法の設備拡充・理学療法士の教育施設拡充といった計画が進んでいるとの説明を受けた。既存の医療・先端医療・教育という多方面に対し拡大しつつある中国リハセンターが今後の4-5年間でどのように変化していくのか非常に興味深い。現状では研究を主たる業務としているスタッフは少なく、概ね病院の各職員(医師、療法士ともに)が研究業務を兼任しているという体制で、その点は国リハと大きく異なる点である。必然的に両施設間の研究に対するアプローチには一定の隔たりがあるのは事実であるが、今後そうした差異を生かす形での共同作業を模索することがこれからの課題であろう。最後ではあるが今回のフォーラムへの参加にあたり、様々な配慮をしていただいた中国リハセンターの李建軍所長、通訳として終始サポートをしてくれた陳小梅氏とそのスタッフ、並びに国リハの企画課の尽力に感謝をしたい。

写真 学会場にて加藤所長と 写真 中国リハビリテーション研究センターにて中国リハセンターメンバーと
学会場にて 中国リハビリテーション研究センターにて
   
写真 会場にて筆者発表
筆者発表会場