〔特集①〕
高次脳機能障害情報・支援センターの発足
高次脳機能障害情報・支援センター長 中島八十一


 高次脳機能障害は、当センターが積極的にその支援に取り組み、10年に亘って高次脳機能障害支援モデル事業(以下、モデル事業)及び高次脳機能障害支援普及事業(障発0525001号平成19年5月25日)(以下、支援普及事業)に参画したことを通じて人口に膾炙する用語になりました。特に、平成19年12月25日障害者施策推進本部決定に基づく重点施策実施5か年計画(平成20〜24年度)では、「ア 高次脳機能障害への支援を行うための支援拠点機関を、全都道府県に設置する。イ 国立専門機関等において、高次脳機能障害のための認知リハビリテーション技法の確立や評価尺度の開発を推進するとともに、高次脳機能障害者に対する都道府県単位の支援ネットワークに対する専門的な支援を行い、その支援技術の普及を図る。」と、高次脳機能障害支援の具体策が明文化され、加えて地域支援ネットワークの構築を通じた施策の充実と全国での均霑化のためには、情報提供と疑問に答えることを旨とする情報・支援センターの設置が必要とされました。このような指針に基づいて、障害者自立支援法第78条に基づく地域生活支援事業の一部に位置づけられる支援普及事業の中で国立障害者リハビリテーションセンター(以下、国リハ)は全国高次脳機能障害支援普及拠点センターとなり、政策的支援事業で主導的な役割を果たしてきました。

 支援普及事業で国リハは支援拠点機関等全国連絡協議会と同支援コーディネーター全国会議をそれぞれ年に2回開催しています。他に全国を10に分割したブロック毎の会議を年に1から2回、都道府県毎の地域連携委員会を随時開催しています。このようにしてこれまでに蓄積した経験を情報提供しながら、大きな目標である支援事業の全国均霑化を達成しようとしてきたところです。

 支援拠点機関については平成22年6月を以て47都道府県すべてに設置を見ることができました。モデル事業に当初から参加している自治体とでは10年近い運用経験の差があるものの、やがてはその差はなくなるものと思われます。しかしながら、なお均霑化が大きな課題となっているのはむしろ同一自治体の中での南北問題です。この地域差の解消はなかなかに解決困難な課題ではあるものの、ICT技術の普及はその方法のひとつとして有力であると考えられています。

 現行の支援普及事業における情報提供とそのソースとなる情報収集に係る課題は以下の通りです。

これら3項目を中心に適切な情報収集とICT技術を活用した円滑な情報提供をなすために、平成23年10月1日国リハの研究所内に高次脳機能障害情報・支援センター(以下、情報・支援センター)が設置されました。国リハにあっては、発達障害情報・支援センターに続く二つ目の情報・支援センターとなり、このような全国規模の情報発信機能をもった機関として国リハに新たな位置付けが加わりました。この名称からも理解できるように、情報・支援センターには情報を提供することにより支援拠点機関などで支援に従事する専門職員を支援する大きな役割があります(図1)。

 試行的な情報提供はすでに始まりましたが、現在ホームページ構築ソフトウェアを作成中であり、その完成を待って本格的なホームページ運用が始まることになります。とりわけ重要な事項はホームページのコンテンツ、すなわち提供すべき情報の内容であり、このコンテンツ作成に全力を傾注する必要があります。

 高次脳機能障害の診断から支援手法、制度に至るまで日進月歩の勢いで進んでいて、国内外の高次脳機能障害に関するウェブサイト、研究文献から様々な情報を収集します。次いで収集された情報を専門的知識により信頼性の高い情報、高次脳機能障害情報・支援センターが掲載すべき情報であるか分析します。その上で有用と判断された事項について、これを分かりやすい様式で情報提供することになります。

 向後の情報・支援センターの業務として情報収集、分析、発信を行う体制の強化が必要であり、当事者・家族、支援拠点機関職員を始めとする専門職員、行政機関職員、一般市民等に対する、全ライフステージにわたる高次脳機能障害支援情報の提供を目標に、高次脳機能障害者が地域で暮らしながら障害程度に応じた社会参加を果たすことを目的に、情報・支援センターは第一歩を踏み出したところです(図2)。運用に当たっては、国リハ全職員の協力をお願いする次第です。

図1 高次脳機能障害情報・支援センターの役割 (1)関連情報の収集、整理、発信 (2)各種支援プログラムの調査研究 (3)支援拠点機関の職員等に対し、支援技術習得に関する研修実施 (4)高次脳機能障害の普及啓発 (5)全国関連機関との連携
図1 高次脳機能障害情報・支援センターの役割
 
図2 高次脳機能障害情報・支援センターが目指す支援ネットワークイメージ 当事者・家族を中心とした医療、地域、支援拠点機関、行政、就労支援、企業・職場、福祉のネットワークがあり、ネットワーク同士もつながりがある。 また、支援拠点機関は都道府県と委託の関係にある。高次脳機能障害情報・支援センターは支援拠点機関と事例・情報の相互伝達を行い、都道府県にはその情報の提供を行う
図2 高次脳機能障害情報・支援センターが目指す支援ネットワークイメージ