〔特集③〕 |
「高次脳機能障害者の就労移行支援」 |
自立支援局 理療教育・就労支援部 就労移行支援課 |
当センターの就労移行支援は、平成18年10月より施行された障害者自立支援法に基づく障害福祉サービスとして開始され、それまでの、身体障害者を対象とした職能訓練から、福祉施策と労働施策の連携を図り就労をその目的とする事業となり、主たる対象者を身体障害者、及び、高次脳機能障害者としてサービス提供を開始した。また、他事業者に比較して大規模に行うことを求められることとなった。
当センター設立当初からの外傷性脳損傷者と脳血管障害者の利用は、職能訓練と障害者中央職業能力開発校(以下職リハ)を利用する一般リハビリテーション課程の肢体不自由入所者として、昭和54年から平成11年までの間に外傷性脳損傷者は128名、脳血管障害者は162名の受け入れをおこない、高次脳機能障害者にも支援実績があった。(注1)身体障害のある高次脳機能障害者に対する支援を行ってきたことが、その後の高次脳機能障害者のモデル事業への協力から就労移行支援事業に引き継がれている。
障害福祉サービスである就労移行支援の利用にあたっては、身体障害者は身体障害者手帳所持が利用の要件となるが、高次脳機能障害者が取得をする精神障害者保健福祉手帳については、必ずしも利用開始の要件とならず、市区町村発行の障害福祉サービス受給者証の交付により利用することが可能である。そのため高次脳機能障害者が利用開始する場合には、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていない者や、身体障害者手帳により利用開始となり、高次脳機能障害診断書など医学的所見に基づく資料がない者もいる。
ここでは、高次脳機能障害者の就労移行支援の利用(職リハ含めず)の推移を、平成18年10月以降利用開始者のうち、利用者支援システムに高次脳機能障害診断書のある者について利用者の状況と帰結について概観する。
平成18年10月〜平成23年9月までの利用開始者で、職リハを利用せず就労移行支援より利用開始したものは、在籍者を含め312名であり、診断名に脳梗塞などの脳血管障害や脳挫傷など外傷性の記載がある者は145名であった。うち、高次脳機能障害診断書のある者は75名であった。
高次脳機能障害診断書のある者の構成は以下のとおりであった。
表1 男女別 (単位:人)
|
表3 障害原因別 (単位:人)
|
表4 障害者手帳別 (単位:人)
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||
表2 年齢構成別 (単位:人)
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||
図)脳外傷、脳血管障害利用者年度推移 (単位:人)![]() |
就職にあたっては、ハローワークにおいて障害者としての求職登録が必要となる。求人を行う企業も、法定雇用率を達成しトライアル雇用や各種助成金など諸制度の活用を行うためにハローワークからの紹介による手続きを前提としている。
平成18年4月から、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者)が法定雇用率の算定対象に組み入れられたことから、高次脳機能障害者で障害者手帳のない者についても就職活動時には精神障害者保健福祉手帳を作成し求職登録を行うようになった。
就労移行支援利用者の帰結と高次脳機能障害者診断書のある者の帰結は表5のとおりであった。
表5 就労移行支援利用者 帰結(平成18年10月〜平成23年9月末まで) | (単位:人) |
就職者数 | 施設利用 | 精神障害者社会適応訓練 | 就職活動 継続 (家庭復帰) |
修了者 合計 |
自己都合退所 | 終了者 合計 |
|||||||
就職 カッコ書( )は自営 |
復職 | 小計 | 就業率 (就職者数/修了者数) |
就労継続A | 就労継続B カッコ書( )は旧法施設 |
就労移行支援施設 | 就労訓練中 | 職リハ 入所否後 |
|||||
全利用者 | 75(2) | 16 | 91 | 48.9% | 7 | 27(8) | 2 | 1 | 58 | 186 | 35 | 15 | 236 |
高次脳機能障害 診断書あり |
13 | 4 | 17 | 42.5% | 2 | 10(1) | 1 | 1 | 9 | 40 | − | 2 | 42 |
訓練後→職リハ移行 | 終了者+ 職リハ移行 合計 |
|||
継続して 宿舎利用 |
通所により 解約 |
合計 | ||
全利用者 | 107 | 18 | 125 | 361 |
高次脳機能障害 診断書あり |
8 | 4 | 12 | 54 |
※高次脳機能障害診断書ありは、在籍者除く
※全利用者=平成18年10月以前からの利用者を含む
当センターの高次脳機能障害者の中には、遂行機能や注意障害などの認知機能の障害のほかに麻痺や視覚障害などの身体障害や失語症など音声言語機能の障害を持つ者も多い。これらの障害のため企業が求める水準の職業技能を身につけることが難しいと思われる者もいる。就労移行支援では技術習得の職業訓練をおこないながら、職場体験訓練(模擬職場)を行い、職場体験実習やマッチング支援など施設外支援をとおして就労に結び付ける取り組みを続けている。
注1 身体障害者リハビリテーション研究集会2001
外傷性脳損傷者の画像所見と職業訓練 小松原正道 佐藤徳太郎 小熊順子他
外傷性脳損傷者と脳血管障害者における退所後の就業状況 小松原正道 佐藤徳太郎 小熊順子