〔トピックス〕
「システム脳神経科学とリハビリテーション研究会: SNR2012」開催報告
研究所・脳機能系障害研究部脳神経科学研究室 神作憲司


 2012年3月14−15日に国立障害者リハビリテーションセンター学院(6F大研修室)にて「システム脳神経科学とリハビリテーション研究会(Conference on Systems Neuroscience and Rehabilitation: SNR2012)」を開催しました。システム脳神経科学とリハビリテーションの関わりを手掛かりに、医学、工学、心理学等、バックグラウンドを問わずに研究者が集い、先端科学と人間の福祉の向上を如何につなげていくかについて議論する場を提供できればと考え、本研究会を企画させていただきました。今回が、2010年、2011年に引き続き3回目の開催となり、これまでに、初期のものを纏めた書籍も刊行されています(ISBN: 978-4-431-53998-8)。
 研究会では、はじめに国リハでの関連研究として、脳機能系障害研究部脳神経科学研究室で行ってきている、ブレイン−マシン・インターフェイス技術を用いた障害者自立支援システムの研究開発状況をご紹介しました。つぎに、運動機能系障害研究部の緒方徹氏より、脊髄損傷後の歩行運動に関する最近のニューロリハビリテーション研究をご紹介いただきました。
 そして、米国立衛生研究所/神経病・脳卒中研究所(NIH/NINDS)のMark Hallett氏より基調講演をしていただきました。Mark Hallett氏はこれまで、神経画像といったシステム脳神経科学の手法を駆使して運動機能障害等に関する先駆的研究をされてきており、今回は、運動学習に関する総論的なお話をしてくださいました。私は2001年から2004年まで、Mark Hallett氏の研究室に留学しており、そのご縁での招聘となりました。
 引き続き、最先端の研究をされている先生方にご講演いただきました。3部構成とし、第1部は「ブレイン−マシン・インターフェイスとニューロリハビリテーション(Brain-Machine Interfaces and Neurorehabilitation)」、第2部は「感覚運動統合(Sensorimotor Integration)」、第3部は「動物モデル(Animal Models)」としました。
 第1部「ブレイン−マシン・インターフェイスとニューロリハビリテーション」では、東京工業大学精密工学研究所の小池康晴氏より、脳波信号から筋電信号を推定する最近の研究をご紹介いただきました。フィンランドAalto大学・ElektaのLauri Parkkonen氏からは、脳磁図(MEG)を用いたブレイン−マシン・インターフェイスに関する演題をご発表いただき、電気通信大学の横井浩史氏には、工学の視点から、電気刺激の手法やニューロリハビリテーションについてご講演いただきました。
 第2部「感覚運動統合」では、英国ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のPatrick Haggard氏より、体性感覚機能と視覚入力の興味深い関係や、それらの心理学の先端知識がリハビリテーションに貢献する可能性について、特別講演をしていただきました。そして京都大学医学部の美馬達哉氏より、いわゆるミラーセラピーの生理学的背景を経頭蓋磁気刺激法(TMS)により探るお話をしていただきました。
 第3部「動物モデル」では、生理学研究所の伊佐正氏より、脳および脊髄損傷の霊長類モデルを用いた機能代償に関する一連のご研究に関して特別講演をしていただきました。生理学研究所は、私も2004年から2006年まで在籍しており、そのご縁での招聘となりました。そして広島大学の内匠透氏より、染色体工学を用いた自閉症のマウスモデルについてご講演いただきました。動物とヒトとが持つ生物学的な共通性をうまく利用して、ヒトを対象とした研究と動物を対象とした研究とを相互に関連させつつ、研究成果をより早く患者・障害者へと還元するための議論がなされました。
 さらに今回は、大阪大学の北澤茂氏、情報通信研究機構・国際電気通信基礎技術研究所(NICT・ATR)の今水寛氏に、特別討論者として貴重なご助言を得ることが出来ました。また、特筆すべきは、若手研究者からのポスターも26演題の発表があったことです。これらのポスターの発表の質が非常に高く、発展を予感させる演題ばかりであるとのご指摘もいただきました。
 今回の「システム脳神経科学とリハビリテーション研究会(Conference on Systems Neuroscience and Rehabilitation: SNR2012)」は、基調講演のMark Hallett氏、特別講演のPatrick Haggard氏と伊佐正氏をはじめ、先端的な研究を行っている研究者が一堂に会する貴重な機会となりました。ご参加いただきました皆様に感謝いたします。こうした機会を設けることで、近年展開が著しいシステム脳神経科学やその周辺の先端科学による研究成果を、リハビリテーションへと良く活用していくために貢献できればと願っています。本研究会を開催するにあたり、いろいろとご指導いただきました江藤文夫総長、加藤誠志研究所長、諏訪基研究所顧問、中島八十一学院長・脳機能系障害研究部長、赤居正美病院長、中村耕三自立支援局長に深く感謝いたします。そして研究室スタッフの皆さん、準備から当日対応・後片付けまで、おつかれさまでした。国の内外や研究分野を問わず、患者・障害者のために研究者が結集する機会をつくっていければと考えていますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

図:会場にて
図1:会場にて1   図2:会場にて2