〔トピックス②〕
「第14回国際義肢装具協会(ISPO)世界大会」参加報告および「ベストポスター賞」受賞報告
研究所 義肢装具技術研究部 中村隆

 2013年2月4日から7日までの4日間、インドのハイデラバードにおいて「第14回国際義肢装具協会(ISPO: International Society forProsthetics and Orthotics)世界大会」が開催されました。
 ISPOは義肢装具・リハ工学に関する公平かつ非政治的で協調的な国際的諮問団体で、義肢装具サービスの向上をめざすことを目標としています。世界大会は3年ごとに開催され、世界中から義肢装具にかかわる医療従事者や研究者、教育者らが集い、学術交流を深めます。国立障害者リハビリテーションセンターからも毎回数名が参加し発表をしています。また、商業展示では世界中のメーカーから多彩な商品が紹介され、画期的な義肢装具部品の発表もあります。
 14回目の今大会は、シンポジウム、一般演題、ポスター等を含む計121のセッションで構成され、参加者は85か国、1800人を超えました。近隣のアジア諸国からの参加者も多かったとのことです。会場では偶然にも、5年前に当センターで行われたJICA補装具製作技術研修コースの研修員であったラオスの義肢装具士ソマイさんと再会しました。日本での研修内容が帰国後も役に立っていることを聞き、安心しました。こういった出会いがあるのも世界大会ならではのことです。
 ISPO世界大会への参加は今回で3回目になりますが、回を重ねるにつれ、義肢装具の世界事情が肌に感じられるようになりました。過去2回はカナダのバンクーバーとドイツのライプチヒで開催され、欧米の大学やメーカーの研究開発と技術力に圧倒されました。しかし今回は、新興国として勢いのあるインドでの開催でもあり、少々趣の異なる大会でした。
ポスター会場でポスターを読んだり、説明を聞く人々の写真 ラオスの義肢装具士ソマイさんと筆者の写真
にぎわうポスター会場 ラオスの義肢装具士ソマイさんと

 ご存じの通りインドは急速な経済発展を続けています。しかし、いまだ貧富の差は大きく、義肢装具を本当に必要としている人に十分な供給体制が整っていないのが現実です。したがって、学術大会の内容も単なる研究発表だけではなく、義肢装具士の教育や技術伝達に関する演題が多かったのがとても印象に残りました。基調講演はカンボジアトラスト代表のCarson Harte氏による東南アジアの各国に義肢装具士の養成校を作った講演内容で、物だけでなく人と技術も同時に成長することがこの分野では重要であることを強調していました。また、その過程では、日本が人的かつ経済的に多大な貢献をしてきたことも紹介されました。さらに、発展途上国における活動報告のシンポジウムでは、如何にしてその国全域の人々に義肢装具を供給できるかが大きな課題であることが指摘されました。技術や資金はあっても、物や人の移動手段に大きな障害がある地域では、支援はピンポイントとなり中途半端に終わってしまうとのことです。さらに、頻発する大規模災害による被災者や内戦の後遺症に苦しむ国々への支援などは今もなお重要な課題であることを再認識しました。
 今回私は、ポスターセッションにおいて、学院義肢装具学科の高嶋主任教官・丸山教官らと進めている「切断肢の粘弾性分布に対するソケット形状の適合に関する研究」について発表を行いました。発表内容は、これまで製作者の経験と装着者の主観によって判断されていた義足ソケットの適合(フィッティング)の状態を数値で表すことを目標としたものです。発表会場では海外の義肢装具士とのディスカッションが盛り上がり、科学技術の進歩した現在においても、「よい適合とは何か?」という課題は、いまだ答の見つかっていない課題であることがわかりました。
 閉会式では各カテゴリーの表彰式があり、108のポスター演題の中からただ一つ、私たちの発表が「ベストポスター賞」に選出されました。この結果はソケットの適合という本質的な課題にこれまでとは全く違うアプローチで課題解決に迫ったことが評価されたものと理解し、欧米の研究開発が先行するこの分野において、日本人も頑張っていることを世界の人々に知らせることができたと思っています。共同演者および関係者の方々にこの場を借りて深く感謝申し上げます。
 ISPO世界大会へ参加すると最先端の情報が得られるだけでなく、世界における日本の立ち位置についても考えさせられます。日本は技術・経済の面でさらなるリーダーシップを期待されていると感じました。次回はフランス、その次は南アフリカでの開催が決定しており、日本開催のための招致活動も進んでいると聞きます。もし日本開催となれば、ぜひともご参加いただき、世界の義肢装具事情を肌で感じていただければと思います。

会場となったハイデラバード国際会議場の風景写真
会場となったハイデラバード国際会議場