〔巻頭言〕

集める

研究所長 加藤誠志


 日曜日の午後、昼食をとりながらテレビ番組「開運!何でも鑑定団」を見るのが習わしとなっている。お宝が本物なのかどうか、どれ位の値段がつくのかもさることながら、様々な物を集めている人たちを見るのが面白い。蒐集家の多くは収入のすべてを自分の欲しい物につぎ込んでいる。他人の持っていない物を持つ優越感、あるテーマで関連する物すべてを集める達成感が、牽引力になっているのだろう。
 かく言う筆者も、蒐集家を自認している一人である。目標はヒトの遺伝子を全て集めること。これまで国リハで集めた約4万個のヒト網膜細胞由来の遺伝子はすべて理研バイオリソースセンターに寄託され、世界中の研究者によって研究材料として利用されている。ここで使われた、遺伝子を集める技術は、国リハで開発した独自技術であり、世界最高水準の技術であると自負している。最近、この技術がマーモセット、メダカ、カイコ、トマトなど多くの生物の遺伝子を集めるのにも利用されている。
 物をただ集めるだけでは、趣味の域を出ない。集めたものをじっくり眺めて比較し、分類するところから博物学が生まれ、違いの原因を探るところから新しい学問分野が形成される。ダーウィンの進化論もそこから生まれた。我々が集めた遺伝子も、障害を持った患者の遺伝子と比較することによって、病気の原因となる違いが明らかとなり、その診断法や治療法を開発するのに使われる。
 集める対象は物だけとは限らない。情報技術の進展により、ビッグデータと呼ばれる莫大な情報の収集が可能になり、それを解析することによって、これまで見えて来なかった因果関係も明らかになりつつある。例えば、遺伝子の塩基配列情報のデータベースもその一つであり、これには世界中から誰もがアクセスでき、必要な情報はインターネットを介して瞬時に得られる。我々も一日中このデータベースにアクセスしながら研究を行っている。
 障害の分野では、障害当事者、支援者、研究者、支援機器開発者、行政などが、それぞれ異なる情報を必要としている。これらの情報を収集し、発信していくことが、障害に特化したナショナルセンターとしての国リハに期待されている大きな役割の一つであろう。国リハにはすでに、発達障害と高次脳機能障害に関する2つの情報・支援センターが開設され、それぞれの障害に関する最新情報の収集と発信を行っている。しかし、他の障害の情報については、まだまだ未整備の状況にある。とは言え、35年の歴史を有する国リハの病院や自立支援局にはリハビリテーションに関する多くのデータが蓄積されている。研究所においても、障害特性を計測・評価し、データベースを構築することを研究の大きな柱の一つと位置づけている。これらの蓄積されたデータの発信や新しいデータベースの構築が今後我々に課せられた課題である。
 今年度から厚生労働科研費で、全国のリハビリテーションセンターとネットワークを形成して、補装具や支援機器に関する様々なデータベースを構築する研究が始まった。国リハが障害に関する情報の収集・発信の中核機関となる新たな一歩を踏み出したところである。皆さんと智恵を出し合って、有用なデータを収集・発信すると同時に、集めたデータに基づいた新しい支援技術の開発を目指して行きたい。