〔特集〕
発達障害者支援法の改正と
発達障害情報・支援センター
発達障害情報・支援センター

 発達障害者支援法が施行されてから約10年が経過した昨年、法律が改正され8月1日に施行されました。発達障害者の支援の一層の充実を図るために、法律の全般にわたって改正されています。改正のポイントとして下記のポスターに3点上げられていますが、他にも重要な項目がいくつか新たに盛り込まれています。例えば、社会的障壁の除去。発達障害者が日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものを取り除くというものです。また、意思決定の支援に配慮することも明記され、理念的にはより個別性の高い支援が求められることになります。
 平成24年に実施された文部科学省の調査によると、知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す児童生徒、いわゆる発達障害の可能性がある児童生徒が6.5%いるという結果が公表されています。研究者、有識者の中には10%の割合で存在していると指摘する方もおられます。この10年間で、社会における「発達障害」という言葉の認知度は高まっているものの、まだまだ理解が進んでいるとは言い難い状況です。
 先日、発達障害のお子さんがいらっしゃるご家族に話しを聞くことができました。お子さんは診断を受けていて手帳も取得済みとのことです。高校を卒業して専門学校へ入学したので、ご家族が障害のことと配慮事項について学校へ説明に訪問したそうです。障害者差別解消法にも明記されている合理的配慮を引き合いに出して必要な支援を求めたところ、「特別扱いしろ、ということですか?」と返答があり、困ってしまったと言うことです。この手の話はいまだに枚挙にいとまがありません。
画像:改正発達障害者支援法ポスター
改正発達障害者支援法ポスター

 今回の法律改正は理念的にとても素晴らしい内容が多く盛り込まれていると思う反面、実現のためにはまだまだ相当な時間や労力が必要とされるのは明白です。更に、他の障害とは異なり、障害福祉分野だけで対応することも難しい状況であり、警察を含めた司法関係や企業、母子保健等幅広い分野と連携しながら体制整備を図ることが肝要となります。
 国の機関としてその一翼を担っている発達障害情報・支援センターとしても、改正された法律の理念実現のために、一歩一歩前進していきたいと考えています。
 この度の法改正に伴い、国や地方公共団体の役割も加筆・修正されています。中でも第四章「補則」のうち、第二十一条(国民に対する普及及び啓発)、第二十三条(専門的知識を有する人材の確保等)、第二十四条(調査研究)は発達障害情報・支援センターでも取り組むべき課題であると考えています。
 「国民に対する普及及び啓発」は当センターの本来業務でもあり、ホームページや出版物などを通じて以前より取り組んでいます。今後も時代のニーズに対応しながら、質の良い情報提供を行うとともに、新たなアイデアを駆使しながら、普及・啓発活動を行っていく所存です。
 「専門的知識を有する人材の確保等」は国立障害者リハビリテーションセンター内の学院において養成・研修を実施しています。発達障害関係の研修会は発達障害情報・支援センター長が企画の主担当を担っています。また、発達障害児者支援の専門職を養成する児童指導員科や前述の研修会において職員が講師を務めるなどの連携を図っているところです。今後は更に輪を広げて、外部の関係機関等とも連携を図りながら合理的・効率的な養成・研修事業を展開し、人材の確保等に努めてまいります。
 「調査研究」については、独自の取り組み以外に、都道府県・政令指定都市に設置されている発達障害者支援センターとのネットワークを活用して取り組むべく準備を進めています。発達障害情報・支援センターが運用している発達障害者支援センターを会員とした専用サイトを通じて、有機的な情報のやりとりが可能であり、発達障害者の実態把握に寄与できると考えています。
 国の機関として取り組むべき3つの課題に対応するためには、発達障害情報・支援センターの体制を強化するとともに課題に取り組むためのシステム作りが必要となります。そこで平成29年度の定員及び概算要求事項として、発達障害情報分析官の増員及び発達障害情報分析チームの形成を挙げているところです。全国の研究者、有識者、当事者団体等と連携して発達障害情報分析チームを組織し、上記3点に有用な情報を収集・分析しエビデンスに基づく情報発信を行うこととしています。発達障害情報分析官は情報分析チームをコーディネートするとともに情報分析会議を招集・開催し、自らも会議のメンバーとして参画します。更に会議での検討事項を整理しまとめ、情報発信までを担うこととなります。
 最後に発達障害情報・支援センターの今年度の取り組みについて紹介します。
 平成28年度より「発達障害支援施策の支援事業」が新たに予算化されています。事業の詳細は国リハニュース10月号を参照してください。今年度は法改正により新たに盛り込まれた、「発達障害者支援地域協議会(前身は予算補助事業の「発達障害者支援体制整備検討委員会」)」が未設置の自治体を中心に、厚生労働省の専門官らとともに訪問し、意見交換等を通じて協議会設置の趣旨を説明して回っているところです。
 普及・啓発の一環としては11月に「医療・福祉従事者のための発達障害臨床セミナー」を開催いたしました。基調講演では発達障害の研究者として世界的にも著名なスウェーデンイェーテボリ大学のクリストファー・ギルバーグ博士にご講義いただき、その後「発達障害者支援法改正に鑑みる成人期支援の課題と展望」と題してパネルディスカッションを行いました。149名が受講したセミナーのアンケート結果は、「非常に良い」「良い」を合わせて97.6%という好評ぶりでした。
 今回の特集記事をご覧頂いてお分かりになるように、国立障害者リハビリテーションセンターでは各部署において発達障害への取り組みを行っています。現在、発達障害関連部署連絡会議を設置しており、情報共有を図っているところですが、今後はより一層連携の強化を進めながら国立障害者リハビリテーションセンター全体で発達障害者支援に取り組んでまいりたいと考えています。