〔特集〕
病院における発達障害への取り組みについて
病院 第三診療部

第三診療部(児童精神科)における診療
 児童精神科は、平成22年7月、院内(耳鼻咽喉科、眼科、リハ科)紹介を受ける院内外来として発足しました。平成25年5月、病院第三診療部が創設され、院外からの紹介も受けるようになりました。平成26年3月より、発達障害の評価入院を開始し、平成26年4月より、自立支援局秩父学園(福祉型障害児入所施設)利用者のための秩父外来を開設し、思春期に焦点化したショートケアを始めました。現在、医師3名、言語聴覚士1名、臨床心理士1名で診療に当たっています。年間新患患者は、70名を越える程度ですが、長期的なフォローが必要になる方が多く、通院患者数は増加しています。院内連携をスムーズに進めるために、耳鼻科、眼科と定期的にカンファレンスを開催しています。自立支援局、職業リハビリテーションセンターに通所している方が受診する場合も、担当者とカンファレンスを実施するようにしています。学齢期の患者では、学校生活に関するトラブルも多く、多くのケースで学校との連携も進めています。ここでは、第三診療部に特徴的な4つの外来機能について、紹介します。

各種障害と発達障害との重複障害への対応
 児童精神科では、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由(脳性まひ、四肢切断など)と発達障害を併せ有する(あるいは疑いのある)方への診療を積極的に行っています。このうち、視覚障害や聴覚障害のある方々への診療は、着実に例数を重ねています。発達障害があるかもしれないと診断を希望しても「(視覚障害あるいは聴覚障害の)専門でないのでわからない」と受診を断られた方、当センターの眼科や耳鼻咽喉科で「発達が心配」と児童精神科への受診を希望された方、自立支援局に通いながら技能習得や人間関係で悩んでいる方…このような方々に対応するなかで、徐々に中心的な業務として取り組むようになりました。現在、視覚障害や聴覚障害のある人は新患の約1〜2割となっています。幸い当センターには、前身の国立東京視力障害センターや国立聴力言語障害センターのころからのノウハウの蓄積があります。当科では、眼科や耳鼻咽喉科、自立支援局、学院の方々と連携しながら、時に議論を重ね、臨床を積み重ねています。最近は、近隣の視覚障害特別支援学校や聴覚障害特別支援学校に在籍する発達障害が疑われるお子さんも多く来院されるようになりました。彼らの多くは明らかな知的障害がなく、幼いころから専門的教育を実施してきたにもかかわらず、学習の遅れや行動上の問題を合わせもつ子どもたちです。学校の先生方と連携しながら、発達障害の特性に沿った教育という視点を取り入れ、支援方法の工夫を進めているところです。

発達障害を合併する吃音への対応
 成人吃音外来を受診した患者さんのうち、自閉症スペクトラム障害やうつ病、社交不安障害などの精神科疾患が疑われた方を、児童精神科外来で対応しています。自閉症スペクトラム障害には、さまざまな精神疾患が合併しやすいことがわかってきており、吃音もその一つです。
吃音のために就職も対人関係もうまくいかない、と思ってきたけれど、成人吃音外来受診をきっかけに、自閉症スペクトラム障害の診断や評価を得て、適切な就労支援を受けて就労できた、という例も出てきています。
 うつ傾向や社交不安障害のある吃音の成人向けには月に1度、1回2時間の小集団精神療法を行っています。成人吃音外来担当の医師もスタッフとして参加し、マインドフルネスや認知行動療法を取り入れたアプローチを行っています。平成29年からは「トラウマに関する認知処理療法(P.Resick)」を12回1クールとして行う予定です。
 吃音患者に併発する精神疾患についての調査も行っています。成人吃音外来初診に児童精神科医が同席したり、心理テストの実施、結果フィードバックなどを行っています。
 DSM-5では、吃音は神経発達障害群に分類されていますが、精神科の学会などで吃音が話題になることはほとんどありません。しかし、吃音のもたらす本人への心理的ストレスは社会的ひきこもり、うつ病や自殺にまで追いやることもあるほど大きい場合も多く、精神科的な対応が必要な疾患です。児童精神科では、耳鼻咽喉科のスタッフと協力して、吃音の治療にむけて臨床と研究を行っています。

睡眠障害外来と評価入院
 発達を考える上で、良い睡眠は必要不可欠です。昔から「寝る子は育つ」と言いますが、確かに睡眠中に放出される成長ホルモンは体の成長を促します。しかし、睡眠は身体的な成長だけに重要なわけではなく、日中様々な学習をしてメンテナンスが必要となった脳のお手入れをする役割もあります。児童精神科では発達障害に伴う睡眠障害にも目を向け、適切な睡眠が取れるような医療を提供することで、患者様ご自身がもつ能力を最大限発揮し、成長できるよう、支援を行なっています。また、患者様本人の良好な睡眠状態が家族の健康状態と密接に関連していることも、睡眠問題に取り組む大きなモチベーションとなっています。
 また、外来での知的能力評価や言語機能評価だけでは見えてこない患者様の生活全体で起こる問題を知るために、平成26年度から入院での総合発達評価を始めました。発達障害評価入院では、臨床心理士、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、運動療法士、看護師、眼科・ロービジョン、医療相談といった、オール国リハ体制といってもいい布陣で臨んでいます。日常的に経験しているはずの各種作業習得度、運動の不器用さ、体力、実際の生活場面での人との関わりかたといった多岐にわたる発達評価だけではなく、見落としがちな器質的疾患の並存に関する医療的評価も網羅的に行なっています。これらの結果を踏まえて、医療相談のサポートを受けながら、地域での適切な福祉・教育・医療支援へ繋ぐことを目指しています。

ショート・ケアについて
 発達障害青年向け児童精神科ショート・ケアは、週1回3時間のプログラムを月4回行っています(平成28年12月現在)。当院ショート・ケアは、就労や進学への移行期にある青年を対象とし、発達障害者のライフステージ間の移行をスムーズに進めることを目的とした、通過型の精神科ショート・ケアです。特徴としては、発達障害者向けのSSTプログラム、障害理解や自己理解を促進する心理教育的講義のほかに、リハビリテーション病院の機能を活かした運動療法や生活訓練をプログラムに盛り込んでいる点があげられます。
 また、当院ショート・ケアは高校生年代の利用が中心です。つまり、発達障害の早期発見・早期支援につながらずに特別支援教育を受ける機会を逸し、高校生年代以降に社会的に不適応をきたした青年らが多く来ているのも特徴のひとつです。
 思春期の発達障害の方は成人と異なり「足りないソーシャルスキルを身につける」以前に、「自分とは何か」が大きな課題です。当院ショート・ケアでは、他者と自分とを重ねて自己理解を深めたり、共通の悩みをもつ仲間と出会うという、仲間集団による精神療法的効果が重要であると感じています。また、不器用な体の使い方や段取りを立てて行くことが難しいことから、体育指導や生活支援へのニーズが高いと言えます。
 発達障害向けの精神科デイ・ケアやショート・ケアは全国的にも増加傾向にはありますが、国リハならではの視点を持ち、発達障害者に必要な支援を開発していくことが現在の責務と考えています。