〔トピックス〕
第16回 国連障害統計に関するワシントン・グループ会議に出席して
研究所 障害福祉研究部 北村 弥生

 2016年12月6日から9日に、南アフリカの首都プレトリアで行われた第16回国連障害統計のワシントン・グループ会議(WG)に参加したので報告します。WGは国際比較を可能にする障害統計尺度を開発することを目的にしています。この尺度は、医学的診断によらずに、ICF(国際生活機能分類)に基づいて生活上の機能制限をわかりやすい言葉で表現し、国勢調査または全国調査で「障害」を抽出するために使用することが想定されています。WHOは「障害に関する世界報告書」(2011)で、「全世界の人口の15%はなんらかの障害を抱えて生活している」としていますが、国際比較でいう「障害」は各国の障害福祉サービス受給者とは異なる概念です。
 すでに、WGが2006年に発表した短い質問セット(6領域:視覚、聴覚、歩行、コミュニケーション、認知、セルフケア)は、これまでに78か国の国勢調査あるいは全国調査で使用されたことが報告されました。たとえば、「認知機能」については、「記憶することや集中することに苦労がある」という質問に対して、「いいえ、苦労はありません」「はい、多少苦労します」「はい、とても苦労します」「全くできません」の4つの選択肢から、回答者は1つを選択し、6つの質問のうち「とても苦労する」または「全くできない」を一つ以上選択した場合を「障害」とすることが提案されています。
 第16回WGでは、子どもに関する指標の確定が確認され(2〜4歳用と5〜17歳用)、環境指標として教育環境と労働環境が、それぞれUNICEF(国連国際連合児童基金)とILO(国際労働機関)の協力で作成されていることが報告されました。ワーキンググループの活動としては、精神領域の指標開発に加えアクセシビリティに関する指標開発は国連国際電気通信連合International Telecommunication Unionと協力して引き続き行う方針であること、行政データの活用とデータ解析について新たに活動を開始することが承認されました。

表1 米国NHISの結果による障害レベルの区分案:上肢機能
 
2リットルのボトルを腰から目の高さに持ち上げること
合計
困難なし
少し困難
とても困難
できない
小さな物をつまんだり、容器や瓶を開けたり閉めたりすること
困難なし
14786
困難レベル1
309
困難レベル2
58
困難レベル3
44
困難レベル4
15197
少し困難
782
困難レベル2
355
困難レベル2
51
困難レベル3
40
困難レベル4
1228
とても困難
98
困難レベル3
73
困難レベル3
51
困難レベル3
33
困難レベル4
255
できない
9
困難レベル4
5
困難レベル4
7
困難レベル4
49
困難レベル4
70
困難レベルの数値が大きいほど困難が大きいことを示す。第14回、15回では、拡張質問群のすべての領域で困難レベルを決めようと試みたが、第16回では国際比較に必要な領域に限って提案された。
画像:成都市郊外での地震体験者を対象としたグループワーク 図1 南アフリカ統計局の建物内の壁に
描かれた統計局の歴史
画像:成都市郊外にできた四川大學華西醫院
図2 動物のはく製でも、ライオンは
ヒョウを木の上に追い詰めていた
(プレトリア自然誌博物館)
 また、WGが開発した拡張質問セットを、米国健康面接調査(NHIS:2013,18歳以上サンプル数16,750)で使用した結果の分析が引き続き報告されました。拡張質問セットには、短い質問セットの6領域に、「上肢」、「情動(「不安」と「憂鬱」)」、「痛み」、「疲労」に関する領域が加わり、それぞれの領域に2〜9の設問が含まれます。NHISのデータ解析の結果、拡張質問セットのうち「上肢」「不安」「憂鬱」領域の6問について操作的な困難レベルが考案されました。短い質問セット6問の「かなり苦労する」および「全くできない」と上記の6問の困難レベル4を合わせた操作的な「障害」を国際比較のために使用することが提案されました。
 会場となった南アフリカ統計局はプレトリア中心部から5kmにあり、広大な4階建2棟に1100名の職員が働いているそうです。2000年に初めて黒人が局長となり、局長室のある建物の壁面には統計局の歴史が描かれていました(図1)。また、市の中心である市庁舎の正面に位置する自然誌博物館にあったアウストラロピテクスの化石模型からは人類の起源に思いをはせ、生活感のある哺乳類のはく製には野生を感じました(図2)。
※過去のWG会議の参加記録も、国リハニュースおよび国リハホームページに掲載されています。また、WG会議でのプレゼン資料も国連WG会議のHPから公開されています。

【参考】ワシントングループの短い質問セットの質問

基本領域名

質問文
 
回答の選択肢
視覚あなたはメガネを着用しても見るのに苦労しますか?   1 いいえ、苦労はありません
聴覚あなたは補聴器を使用しても聞くのに苦労しますか? 2 はい、多少苦労します
歩行あなたは歩いたり階段を登ったりするのに苦労しますか? 3 はい、とても苦労します
認知あなたは思い出したり集中したりするのに苦労しますか? 4 全くできません
セルフケアあなたは身体を洗ったり衣類を着たりする(ようなセルフケア)で苦労しますか
コミュニケーションあなたは普通(日常的)の言語を使用して意思疎通すること(例えば理解したり理解されたりすること)に苦労しますか?