〔トピックス〕
令和元年度 作業療法士・理学療法士研修会
病院リハビリテーション部 主任作業療法士 伊藤 伸

 令和元年10月9日から11日までの3日間の日程で、令和元年度作業療法士・理学療法士研修会を開催しました。
  これまでは、作業療法部門(以下OT)、理学療法部門(以下PT)別個に、それぞれの専門領域における課題や部門ごとに発信すべき内容をテーマとして研修会を企画してきました。近年の医療の現場において、急性期、回復期、維持期など、リハビリテーションの現場においては病期ごとの分業化が進んでいます。その中で、OTとPTの業務内容はそれぞれの施設の方針やOTとPTの人員配置状況、訓練実施環境等の様々な事情により、OT、PTそれぞれに求められる知識、技術、知見も大きく異なってきている現状があり、従来のような職種別研修会では受講者の事情やニーズに応えきれなくなりつつもありました。さらに、団塊の世代が75歳を迎える2025年に向けて「異次元の高齢化」が進む中で体制整備が着々と進んでいる地域包括ケアシステムにおいては、OT、PTなどの各専門職がそれぞれの専門性を発揮することを前提としながらも、職種の枠を超えた柔軟な連携と、対象を生活する人として多面的かつ総合的な視点で対応ができるジェネラリストが求められるようになっています。また、脊髄損傷のリハビリテーションにおいては、OT、PT双方の専門領域における知識、技術、知見をそれぞれが共有して理解を深めることで、脊髄損傷者に対する機能回復から社会参加までの総合的なリハビリテーションプログラムの立案と遂行ができるようになることが期待されます。
 このような背景から、OT、PTが同じ会場で同じ内容を学び、共同で理解を深められるような研修会を立案しました。研修プログラムの企画にあたっては、多方面からご意見を伺いながら修正を繰り返し、今回の開催に至ることができました。研修プログラムは、脊髄損傷・頸髄損傷の基礎的な内容から始まり、当センターでも深く関与している脊髄再生に関する知識の共有、車椅子に関する講義と操作体験実習、生活環境調整と福祉機器、社会参加支援、自動車運転再開などの講義と、OT、PT混成グループによる事例検討でした。
 参加者はOTが14名、PTが7名であり、遠く青森から参加された方もいらっしゃいました。参加者の実務経験年数は2年から14年であり、日常的に脊髄損傷に関わっている人もいれば、ほとんど関わっていない方もいるなど、参加者の経験値にはかなりのばらつきがありました。講義を受ける方もする方も真剣勝負そのものであり、講義終了後には講義に関する質問だけではなく、それぞれの臨床での疑問や悩みを講師に尋ねられることも多くありました。
 車椅子操作体験実習では手動型の車椅子から、多機能型電動車椅子などを実際に乗車・操作をしてもらいました。屋外の練習スペースにおいて、側方傾斜路や路面段差、勾配の昇降など、実際場面に近い環境で体験できたことで、車椅子に関する理解がさらに進んだと思われます。グループに分かれての事例検討では、あらかじめ提示している架空の頸髄損傷事例について、事例の深掘りから具体的なリハプログラムの立案、社会参加の方向性についてグループ内で討議を行ました。いずれのグループにおいても3日間で得られた知識や知見をフル活用して、OT、PTそれぞれの視点から意見を出し合うなど熱い討議が展開されました。最後には、その討議結果(成果)を発表してもらうことで受講者全員が共有することができました。
 受講者からの終了後アンケートでは、すべての項目において8から9割以上で「非常に良い、良い」との回答が得られ、受講者にとって実り多い研修会になったと思われます。また、きめ細やかな気配りが行き届いた運営や、宿舎利用によるメリットなど、多くのお褒めのお言葉を頂くことができました。一方で、様々な貴重なご意見やご要望を頂きましたので、次回以降にしっかりと活かしていきたいと思います。
 OT、PT合同で脊髄損傷をテーマとした研修会は初の試みでしたが、当初の予想以上の成果を得ることができました。次回以降はさらに良いものにすべく、OT、PT一丸となって精進して参ります。
【事例討議の様子】 【車椅子操作体験実習の様子】