〔トピックス〕
データポリシー策定に向けて
研究所 企画調整官 西田柴郎

 直接研究に携わっていなくても、「オープンサイエンス」という言葉を耳にされたことのある方は多いのではないでしょうか?

 国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センターによりますと、「オープンサイエンスとは、極めて曖昧で何を指しているのか漠然としていますが、基本的にはデジタル時代に鑑み、これまで以上にオープンで、多様な可能性をもって行うことができるようになった研究活動の諸側面を総称しています」と説明されています。

(参考) 研究データ管理(RDM)
サービスの構成要素


出典:Digital Curation Centre(DCC);
原典は英文

 研究の専門家ではなくても、できる限り様々な情報に容易にアクセスでき、その情報を分析、研究することで、例えば、障害者のリハビリテーション、福祉の向上に、もっともっと情報を役立てていこうとする活動である、と言えるのではないかと私は思っています。

 科学技術の発展を受けた現在、知識、情報のデジタル化やデータベース化は進んでいますが、その蓄積された知識、情報が、分野間で必ずしも共有されておらず、横断的連携も十分とは言い難いのが現状です。

 膨大なデータを有機的に組み合わせて、科学技術のみならず、社会に新しい価値を創造していくことを可能にするための取組の一環として、特に、研究成果(論文、データ等)の適切な管理・利活用が重要です。

 一方で、そういう状況を作り上げていくためには、条件整備、環境整備が不可欠になります。
特に、我々が扱う情報は、要配慮個人情報も多く、活用しようと思えば、十分かつ慎重な対応が求められます。

 個人情報保護に関する法律は、プライバシーを保護するためにあるとお考え
の方も多いと思われますが、今、個人情報も含め、多くのデータを解析して、これを人々の生活の向上に役立てていこうという動きの中、きちんとルールを決めて、活用しやすくするにはどうすれば良いかという観点も、個人情報保護に関する法律の改正の大きな方向となっています。

 こういった時代の要請から、国においては、「統合イノベーション戦略」(平成30年6月15日閣議決定)を策定し、この取組の一環として、内閣府科学技術・イノベーション担当(CSTI)から「国立研究開発法人におけるデータポリシー策定のためのガイドライン」が示されました。

 このガイドラインは、公益に資するために研究開発の最大限の成果を確保することを目的とする国立研究開発法人において、データポリシー策定の参考となるよう、研究データの管理と利活用についてのポイント、並びにデータポリシーで定めるべき項目及び基本的な記述内容が示されたものです。

 当センターは、国立研究開発法人ではないのですが、厚生科学審議会科学技術部会において、国立研究開発法人以外の厚生労働省関係研究機関にあっても、このガイドラインを活用したデータポリシーの策定を推進するべきとされました。

 このガイドラインでは、データポリシーには、
(1) 当センターにおけるポリシー策定の目的について
(2) 管理する研究データの定義、制限事項について
(3) 研究データの保存・管理・運用・セキュリティについて
(4) 研究データに対するメタデータ、識別子の付与、フォーマットについて
(5) 研究データの帰属、知的財産の取り扱いについて
(6) 研究データの公開、非公開および猶予期間ならびに引用について
定めることとされています。

 こうしたことから、当センターにおいても、このガイドラインを参考に、データポリシーの策定の検討を始めたという経緯です。 研究データのオープン化が進むことは、多くの研究者が割いていた、先行技術、先行研究がどこまで進んでいるかの確認の時間も、大幅に節約できることにもつながります。障害福祉、障害者リハビリテーションの分野においても、当センターを中心に多くのデータが活用されることで、障害者の生活の向上に大きく貢献することになると考えます。

 さて、当センターは、言うまでもなく、障害者の自立と社会参加を支援するために、リハビリテーション医療や障害福祉サービスの提供を始め、これらに関係する人材の育成や情報発信なども行い、併せて、障害者リハビリテーション・障害福祉に関する様々な研究・開発を行う機関です。

 そのため、リハビリテーション医療や障害福祉サービスといった臨床、あるいは教育の現場などにおいても、様々なデータが存在します。

 今、オープンサイエンスの時代にあって、こういった臨床の場などから得られる貴重なデータも活用することができるようになれば、これらのデータを科学的に分析し、臨床にフィードバックすることがより容易になります。
オープン化が、「研究論文」にとどまらず、これら臨床のデータも、研究データとして管理、利活用していくことで、障害者リハビリテーション、障害福祉の発展につながり、障害者の生活の向上に資するものと考えます。

 したがって、「研究所のデータポリシー」ではなく、当センター全体で、一つのデータポリシーを策定し、障害者の自立と社会参加の支援の強化に努めていくこととされたわけです。

 とはいえ、研究データという点では、当センターの中では研究所が、もっとも直接的にこれらを扱う部門でありますので、まずは、研究所において、データポリシーの策定に向けて、取り組み始め、これをセンター全体に及ぼしていくという進め方としております。

 具体的には、研究所メンバーで構成される「データポリシー策定タスクフォース」を立ち上げて検討を開始しました。

 タスクフォースでは、まず、「どのようなデータがあって、どのように分類していけばいいのか」という、いわば、データの棚卸し作業を行いました。それらも踏まえ、現在、データポリシーのたたき台を作成しているところであり、今年度末までに、これらの作業を終わらせる予定です。