〔巻頭言〕
自立支援局長挨拶 ~障害者の自立を支援する~

自立支援局長 芳賀 信彦

 令和3年4月に国立障害者リハビリテーションセンター(以下、当センター)の自立支援局長に就任した芳賀と申します。赴任後1年半以上経過しており今更就任の挨拶という訳には行かないのですが、自己紹介を兼ねて当センターとの関わりからお話しします。
 私は昭和62年に大学を卒業し、東京大学整形外科学教室に入局しました。その直後に整形外科の前教授で、当時の当センター総長の津山直一先生に同期全員でご挨拶に伺ったのが、当センターを訪ねた最初になります。その後私は、心身障害児総合医療療育センター勤務をきっかけに小児整形外科、障害児医療に主に従事し、静岡県立こども病院に長年勤務しました。当センターで開催されている義肢装具判定医師研修会を受講し、その際に飛松好子先生に当センター内を案内して頂いたのが平成6年になります。平成18年には東京大学医学系研究科リハビリテーション医学分野に赴任し、平成23年からは義肢装具判定医師研修会の講師(脳性麻痺を担当)とともに、当センター運営委員会の委員も務めていました。平成30年には「国立障害者リハビリテーションセンターの今後のあり方に関する検討会」構成員として会議に参加し、平成31年からは小児筋電義手研修会講師も務めています。
 さて自立支援局に赴任してから「障害者の自立」とは何かを改めて考えるようになりました。広辞苑で「自立」を引くと「他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること。ひとりだち。」と書かれています。この「他の援助を受けず」と関係して、小児科医であり脳性麻痺当事者である熊谷晋一郎氏は興味深い発言をしています。日本肢体不自由児協会が発行する「はげみ」という雑誌の令和3年6/7月号の対談の中で彼は、「自立という言葉を使うときに、『「依存」の反対語ではない』ということを出発点にしないと、人間からどんどん離れていきます。私は、『依存の延長線上に自立がある』という言葉をよく使います。子どもの自立の過程を見てみると、どんどん依存しなくなっていくわけではなくて、依存できるものが増えていっているのです。依存を「へその緒」に例えると、親からの一本の「へその緒」に支えられた状態だったのが、何千本もの細い「へその緒」がその子どもを支えていくような、そういうプロセスとして自立をイメージできます。」と述べています。これは障害児を想定しての発言ですが、成人の中途障害者にも当てはまると思います。健常者も様々な支援に依存しながら生きており、障害者の自立のためには、適切な依存先を確保し、「支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりする」のを支援するのが自立支援ではないかと考えています。このように考えると、1960年代に米国カリフォルニアで始まった自立生活運動(Independent Living Movement)の意義もよく理解できます。
 まだまだ経験が不十分ですが、このようなことを意識しながら、障害者の自立に向けた当センターの活動に貢献したいと考えています。