言語聴覚士からのTips 「ことばを育てる」6
前回は、お子さんの要求表現を受け止めること、その先の表現の仕方について教えていくことをお伝えしました。しかし、そもそも要求したいことが少なく、あまり人に働きかけることがないお子さんもいますね。一人で静かに過ごせたり、自分で欲しいものを持ってきて完結できると見過ごされやすいですが、このようなお子さんにこそコミュニケーション支援が必要です。
人に関心を向けてもらう
物を落としたり並べたり、その子なりの遊び方で楽しむお子さんもいます。その楽しみ方は尊重しつつ、大人はその横でさりげなく、シャボン玉を吹いたり、積み木を積んだりしてみせます。それをゆっくり続けるうちに子どもが見ていたら、途中でやめてみます。子どもが(あれ、なんでやらないんだろう)と大人を見たら、またゆっくり再開します。物ではなく人を見ると続きが始まることで、人に関心を向けるきっかけを作ります。くすぐり遊びや身体を大きく使った遊びを楽しむようであれば、楽しく遊んでいる途中で少しやめてみて、(あれ?)と大人を見たら続ける、というのも良いですね。
誰かを頼る環境を作る
欲しいものが自分で好きに取れる状況では、人への要求が出にくいかもしれません。好きな玩具や食べ物は、子どもの手の届かないところ置いておき、自分で取ろうとしていたら大人は「おもちゃとって、なのね」と玩具を指さして「とって」のジェスチャーをみせてから手伝います。「大人に頼ると取れる」ということがわかると、徐々に大人の手を欲しいものに近づける、空のお皿を出すなど、相手に要求を示すようになります。
まずは、好きなことを介して人との関わりのきっかけをふやすことが大切です。
要求は人と関わるきっかけのひとつですが、要求以外にもさまざまなコミュニケーション機能があります。次回は、要求以外のコミュニケーションについて考えてみます。
言語聴覚士からのTIPS 「ことばを育てる」5
前回は、コミュニケーションは音声だけでなく、視線や表情、指さしや身ぶり、実物や絵、写真、文字など、様々な手段があることをお伝えしました。
自分が伝えられる方法で言いたいことが「相手に伝わった」という経験は、何よりもコミュニケーションを促進する原動力になります。話すことが難しくても、音声だけにこだわらず、そのときの子どもの表現方法で相手に伝える経験を積むことが大切です。
そのときの子どもの表現を受け止めて、その先の表現方法を教えていきましょう
①大人の手を引いてほしいものがあるところまで連れて行くのも、要求表現のひとつです。お子さんのその時の表現を「わかったよ」と受け止めてあげてください
②「大人を引っぱって連れていく」以外の表現方法について見本を見せましょう。たとえば、子どもが冷蔵庫に大人を連れて行ってお茶を欲しそうにしていたら、「お茶ね」と言いながらお茶を飲む身ぶりをします。その際「おーちゃ、お茶ね」と少し抑揚をつけた短い声かけを聞かせてください。
③お子さんにも身ぶりを真似してもらいます。すぐに真似をすることは難しいかもしれません。はじめはお子さんの手を口に持っていくなど動きをサポートし、徐々に自分で真似ができるように促します。少しずつ、「おちゃ」の音声も真似ができるようになるといいですね。
④要求が出たら、視線を合わせて「どうぞ」と渡してあげてください。渡すときは、お子さんの手のひらを上に向ける「ちょうだい」の身ぶりも促すと良いです。③と同じように、はじめはサポートから真似ができるように促し、徐々に自分でほしいときに「ちょうだい」の身ぶりができるように促します。「ちょうだい」の身ぶりは、様々な場面で使えます。まずは真似ができたらたくさん褒めて、視線を合わせて「どうぞ」と渡してください。
次回は、要求そのものが少ないお子さんへの関わりについて考えていきたいと思います。
言語聴覚士からのTIPS 「ことばを育てる」4
伝える手段にもいろいろ
これまでのTipsでは、ことばの概念(わかることがら)を育てることが、ことばの理解(わかることば)につながり、さらに発信(言えることば)につながることを説明しました。
「言えることばが増えると言いたいことがわかるので、早くおはなしをいっぱいしてほしいです」と、私たちも時々ご相談を受けます。そんなときは「お子さんの動きをよく見てください。ことばを話す前から、子どもは自分の気持ちやしてほしいことを私たちに伝えていますよ」とお伝えしています。
たとえば、欲しいものをじっと見る、嫌いな食べ物が出てくると顔をそむける、抱っこしてほしいときに両手を大人の方へ伸ばすなど、視線や表情、からだの動きで、気持ちやしてほしいことがわかりますね。
他にも、お菓子の袋を開けて欲しくて大人に渡す、外に行きたくて玄関まで大人を連れて行く、ハンバーガーショップのマークや大好きな公園の写真を指さして行きたいと訴える、などなど…。
実は、話しことばがあまり多くない、あるいは少ない子どもでも、視線、表情、からだの動き、物や絵などを使って、たくさん思いを伝えています。このようなコミュニケーションは、話し言葉によらないという意味で、非言語的コミュニケーションと言われます。
非言語的コミュニケーションにも目を向けてコミュニケーションを楽しむことで、子どもの「伝えたい気持ち」は育っていき、さらに話しことばの育ちにつながっていきます。
次回は、「伝える手段」とその対応についてもう少し詳しく考えていきたいと思います。
言語聴覚士からのTips 「ことばを育てる」3
言える言葉につながる
前回は「わかることばにつなげる」ことについて述べました。
「わかることば」が増えると、欲しいものや好きな物を見たときに、そのことばを思い出せるようになります。
お腹がすくと「まんま」、大好きな車を見ると「ぶーぶ」など、思い出したことばを声に出すようになり、
少しずつ「言えることば」につながります。
はじめは、ことばの一部や幼児語と一緒に、身ぶりや指さし、表情も豊かに使ってコミュニケーションをとります。
言えることばが増えるためには、「伝えたい気持ち」も育っていることも大切です。
かかわりの例を2つご紹介します
◇ ことばかけは、引き続きていねいに
わかることばに比べて言えることばはゆっくり育ちます。日常の同じ場面で繰り返し同じ単語を聞き、それを真似して覚え、さらにそのことばの使い方を知っていきます。引き続きゆっくりと短いことばかけで正しい音を聞かせ、使い方を示してください。
◇ 伝えたい気持ちを大切に
お子さんが話し始めると、大人はつい「これなあに?」と言ってもらいたくなりますが、大人が言わせたいことではなく、子どもが言いたいことを中心にやりとりをしてください。未熟なことばの言い直しはさせず、子どもが犬を見つけて「わんわ」と言っていたら、「あ、ワンワンだ。犬がいるね。かわいいね」などと受け止めてください。自分が言いたいことが相手に伝わった、という経験が、「もっと伝えたい」という気持ちに繋がります。
「わかることがら」から「わかることば」、そして「言えることば」へ
言えることばにつながるためには、
土台をひとつひとつ丁寧に積み上げていくことが大切です
言語聴覚士からのTIPS 「ことばを育てる」2
わかることばにつなげる
前回は「わかることがらを増やしてことばが育つ土台を作る」ということを述べました。
生活の流れが定着しわかることがらが増えると、それに伴う声かけに気づくようになります。
たとえば、食事用のエプロンを見せながら「まんま、ごはんよ」と声をかけていると、徐々に
「まんま」ということばだけで(食事だ)と喜んだり、自分からエプロンを取りに行くことができるようになります。
ことばかけの例を2つご紹介します
ことばかけは短く簡単に
まだ長い声かけはわかりません。お子さんの注目を引いてから、幼児語(まんま、くっくなど)や身ぶりをつけて、
いつも同じように声をかけます。
徐々に「先にことばへ」
「物をみせてから、ことば」の順番を、「ことばをかけてから、物を見せる」に変えます。
先に「くっく、はこうね」と声をかけ、反応をみながら物(靴など)を見せます。
わかることがらに簡単なことばを添えて、「わかることば」につなげます。
わかることばが増えると「言えることば」へつながります。
次回「わかることばを増やし、言えることばにつなげる」
言語聴覚士からのTips 「ことばを育てる」
わかることがらを増やす
自分の周りで起こるさまざまな出来事を経験して、わかることがらを増やしています。
これが繰り返されると、徐々に、食事の時に座る椅子とエブロンを見るだけで「ごはんだ!」とわかるようになります。
わかることがらを増やして、ことばが育つ土台を作りましょう。方法の例を2つご紹介します。
● 生活の流れを一定にして、次に起こる事を予測しやすくします。起きたら着替えてトイレに行く、朝ご飯を食べたら出かける・・・のように、毎日の繰り返しの中から、お子さんは次に起こる事を予測し状況を理解していきます。
● 状況を物を丁寧に見せて、これから起こる事を伝えます。食事の椅子やエプロンのように、物を見せてこれから起こる事を伝えましょう。お子さんの注意が向いているときに、物を示すと良いでしょう。
わかることがらが増えると、わかることばにつながります。
わかることばが増えることで、言えることばへとつながります。
次回は 「わかることがらを増やし、わかることばにつなげる」についてお伝えします