〔研究所情報〕 |
義肢装具技術研究部の紹介と 研究のゴールに向けて |
研究所 義肢装具技術研究部 三ツ本敦子 |
はじめに
平成22年4月より「補装具製作部」は「義肢装具技術研究部」と名称を変更いたしました。この30年間、義肢装具の製作及び修理、さらに製作技術に関する調査及び研究を行ってきましたが、心機一転これからもより良い義肢装具の普及を目指していきます。また、病院リハビリテーション部には義肢装具療法が開設され、新たなスタートを迎えました。研究部の全職員が義肢装具士として併任となり、臨床に基づく現場に生かせる研究を行っていきたいと思います。
私たちが掲げている研究テーマは大きく5つに分かれます。
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残念ながら紙面の都合上、全ての研究テーマについてはご説明できませんが、ここでは、当部が注力している筋電義手についてご紹介したいと思います。
筋電義手の普及活動
人は筋肉を動かすと微弱な電気信号が筋肉より発生します。この電気信号を検出し、義手をコントロールしようとするシステムが筋電義手です。
義肢装具技術研究部は、従来から筋電義手の製作を行ってきました。しかし、日本では支給制度が整っていないことや筋電義手に対する情報不足もあり、平成10年から平成19年までの10年間でその製作件数はわずか9件でした。そこで、筋電義手に関する広報を充実させ、ホームページや研究所のオープンハウス、国際福祉機器展などの機会を利用して筋電義手とはどんなものであるかを積極的に情報提供しました。さらに、労災保険により両側切断の方へ筋電義手の全額支給が認められたこと、片側切断の方へ筋電義手の研究用支給が始まったこと(労災保険による筋電義手の支給制度に関してはホームページ(注1)を参照ください。)もあり、この2年間だけで製作件数は8件(自費製作含む)と大きく増加しました。いずれの方も製作した筋電義手を日常的に活用して生活をしています。また研究所や病院のリハビリテーションスタッフにはその経験が蓄積されるようになりました。
新たなステージを迎えた電動ハンド
これまでの電動ハンドは親指と示指・中指の3本の指が動くのみで開閉の動きしか出来ませんでした。また指や手部の切断者は、筋電義手の対象外とされてきました。しかし最近では、様々な動きの出来る電動ハンドが海外メーカーの手で製品化されつつあります。5月にドイツのライプチヒで行われた国際義肢装具学会の商業展示ではそれらが初めて公開されました。
あるドイツメーカーの新しい筋電義手システムでは、親指と手関節の動きをコントロールすることにより日常生活動作でよく使われる複数のポーズをとることが出来ます。掌で物を支える、指の間で物を挟む、そして握手も自然な動作です。(写真1)
また、パソコン上でプログラムを変更することで5種類の手のポジションから必要な機能を選択できる機能を持つ、5本指の動く電動ハンドも紹介されました(写真2)。さらに個々の指に独立したモータを搭載した電動ハンドは、特に手部の一部を欠損された方を対象に様々な欠損パターンにも対応可能な電動義手も紹介されました(写真3)。上肢切断者には事故で指や手部を切断された方が多く、今後の展開が期待されます。
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写真1 新しく紹介された電動ハンドと手のパターン | |
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写真2 | 写真3 |
このような新しい筋電義手が日本に導入され普及するのはまだまだ先と考えられますが、義手ユーザーの方々の期待は膨らむ一方でしょう。しかし、その前に現状の筋電義手には解決しなければならない課題があります。
例えば、
・ | 高額機器と支給制度の限界 |
現在、日本で使用できる筋電義手のパーツは海外製品に頼らざるを得ない現状です。そのため筋電義手は非常に高価であり、自費で購入しようとすると片側前腕筋電義手で約100万円以上かかります。そこで保険制度を利用して、少しでも負担額を減らすことをお勧めしたいのですが、現在の支給制度では、対象条件が狭く、支給に困難を極めます。 | |
・ | 限られた製作・訓練施設 |
筋電義手のリハビリテーションを行う施設が全国的に少数であること、また筋電義手に関して精通したリハビリテーションスタッフが乏しいことが指摘されています。 などが日本での普及が遅れている要因であると考えられています(注2)。これらの課題の解決は簡単ではありませんが、少なくとも筋電義手が上肢切断者にとって有用であり、支給するに足る価値のあることを世の中に伝えていかなければなりません。 |
最後に
常に最新技術の情報を入手し、ユーザーへ提供するのが我々の使命ではありますが、今回紹介したような新しい筋電義手パーツを用いるためには専門スタッフに向けたトレーニングやリハビリテーションプログラムの普及、そして公的支給制度の整備が必要となってきます。我々の研究課題として、筋電義手というハードウェア技術の進歩に、今後リハビリテーションというソフトウェアをどのように構築していくかが急務だと思うのです。
(注1)筋電義手試用評価サービス 義肢装具技術研究部ホームページ
http://www.rehab.go.jp/ri/hosougu/kinden.html
(注2)陳隆明.1 筋電義手普及の現状. 筋電義手訓練マニュアル. 東京, 全日本病院出版会, 2006, p.1-4.
(ISBN 4-88117-030-9)