研究内容
3. リハビリテーションのゲーミフィケーション
リハビリテーションにおける機能回復度と脳内報酬系の関係の研究
障害者の日常生活の質を向上させ、自立を支援することを目的としてリハビリテーションが実施されます。リハビリテーション・プログラムによる機能改善効果は、自然回復の寄与の程度が不明であることによって評価が難しいという側面に加え、障害の種類・個人差などによっても異なります。しかし機能改善の成績に影響を与えている因子を特定することができれば、より効果的なプログラムを立案・提供することができます。
効果に影響を与える因子の一つとして、訓練を受ける方の動機付けが挙げられます。これは障害の種類に関わらずどのような対象者にとっても重要な要因であると考えられます。「患者が楽しいと感じられるプログラムを提供することにより取り組みが意欲的になり、機能回復のより大きな効果が期待できる」という臨床における経験則は、リハビリテーション療法士等に広く認識されています。この経験則は一般的な学習においても十分に説得力を持ちます。しかしこの経験則を実証した研究はありません。また、この経験則の神経科学的メカニズムも説明されていません。
訓練の「楽しさ」と「効果」の間に正の相関があるとする経験則を科学的に実証していくために、「楽しさ」を客観的に評価し、神経科学的枠組みの中で検討することを狙います。訓練プログラムにゲーム化(gamification)を適用し、効果の向上が見られるか検討します。ゲーム化はゲームの持つ楽しさに注目し、参加動機を高めようとする心理的技術です。このゲーム化の概念は、もぐらたたきゲームなどの遊戯機器の利用によって身体機能や注意機能等の認知機能の回復が促進されたと考えられる例や、成績をグラフ化するなどして患者にフィードバックすることで意欲を高く保つことができるという例等、リハビリテーション領域において既に潜在的に用いられています。本研究ではビデオゲームの利用・競争の導入等、ゲーム化の様々な 技法がリハビリテーションにおいて、どの程度有効であるかを行動学的手法を用いて明らかにします。
さらに、学習成績に「楽しさ」がどう貢献するのか機能的MRIを用いて脳メカニズムの検討を行います。主観的な楽しさは脳内報酬系によって生起する快の感覚と相関すると仮定し、楽しさと報酬系の活動の相関を示すことを目的の一つとします。同時に、報酬系の活動が学習効果と相関関係にあるかを確認します。さらに、課題遂行に関与する脳領域と報酬系との機能的なつながりを示すことを二つ目の目的とします。