現在、障害者に対する支援機器の支給システムとしては、障害者自立支援法上、「補装具」と「日常生活用具」がある。これらの内容と現状を整理するとともに、今後の課題について検討する。 |
以下の記述は、佐賀大学医学部松尾清美研究室(リハビリテーション工学分野)2006年報告書「身体障害者と高齢者の社会生活行動支援のための生活環境系の設計研究」より抜粋(P38−39))。
1) | 制度の概要 | ||
①「補装具」とは 補装具とは、「障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ、長期間に渡り継続して使用されるものその他の厚生労働省令で定める基準に該当するものとして、義肢、装具、車いすその他の厚生労働大臣が定めるもの」(障害者自立支援法第5条第19項) |
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次の各号のいずれにも該当することとする。 | |||
イ) | 障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつその身体への適合を図るように製作されたものであること。 | ||
ロ) | 障害者等の身体に装着することにより、その日常生活において又は就労若しくは就学のために、同一の製品につき長期間に渡り継続して使用されるものであること。 | ||
ハ) | 医師等による専門的な知識に基づく意見又は診断に基づき使用されることが必要とされるものであること。 | ||
②「補装具」の支給 補装具の購入又は修理に要した費用(基準額)の100分の90に相当する額(補装具費)を支給する。 |
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2) | 対象者・・・補装具を必要とする障害者、障害児 | ||
3) | 実施主体・・・市町村 | ||
4) | 支給の仕組み 障害者(障害児の場合は扶養義務者)が市町村長に申請し、身体障害者更生相談所等の判定又は意見に基づく市町村長の決定により、補装具費の支給を受ける。 法律上は償還払いとなっているが、高額な補装具もあることから、代理受領方式の仕組みも別途市町村で設けている。 |
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○ 補装具費支給の判定と決定 | |||
・ | 補装具費支給の判定と決定については、更生相談所の判定により市町村が決定するものと、医師の意見書により市町村が決定するものにわかれている。義肢、装具、座位保持装置、電動車いすの新規購入及び特例補装具の判定については更生相談所が直接障害者を診て行うこととなっている。 | ||
○ 更生相談所の役割 | |||
・ | 補装具費の支給における、更生相談所の役割は、補装具費支給制度における技術的中枢機関及び市町村等の支援機関として、補装具の専門的な直接判定の他に、市町村への技術的支援、補装具費支給意見書を作成する医師に対する指導、補装具業者に対する指導及び指定自立支援医療機関並びに保健所に対する技術的助言等を行うこととされている。 また、市町村担当職員、補装具費支給意見書を作成する医師及び補装具業者を育成等する観点から、研修等を実施することが望ましいこと。さらに、新しい製作方法又は新しい素材等、補装具に関する新しい情報の把握に努めるとともに、市町村及び補装具業者と情報の共有を図ることとされている。 | ||
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5) | 費用負担 | ||
①公費負担 | |||
補装具の購入又は修理に要した費用の額(基準額)から利用者負担額(原則1割)を除した額を補装具費とし、この補装具費について以下の割合により負担。 負担割合 (国:50/100、 都道府県:25/100、 市町村:25/100) |
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A利用者負担 | |||
原則定率1割負担。世帯の所得に応じ、以下の負担上限月額を設定。 ただし、障害者本人又は世帯員のいずれかが一定所得以上の場合(本人又は世帯員のうち市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円以上の場合)には補装具費の支給対象外とする。 | |||
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6) | 補装具種目一覧 |
種目 |
名称 |
H18基準 |
耐用 年数 |
種目 |
名称 |
H18基準 |
耐用 年数 |
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義足(注1,2) | 290,000 | 1〜4 |
電 動 車 い す |
普通型(4.5km/h) | 314,000 | 6 |
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装具(注1,2) | 80,000 | 1〜3 |
普通型(6.0km/h) | 329,000 | ||||||
座位保持装置(注1) | 251,000 | 3 |
手動 兼用 |
切替式 | 230,000 | |||||
盲 人 安 全 つ え |
普 通 用 |
グラスファイバー | 3,550 | 2 |
アシスト式 | 263,000 | ||||
木材 | 1,650 | リクライニング式普通型 | 343,000 | |||||||
軽金属 | 2,200 | 5 |
電動リクライニング式普通型 | 440,000 | ||||||
携 帯 用 |
グラスファイバー | 4,400 | 2 |
電動リフト式普通型 | 701,400 | |||||
木材 | 3,700 | 座位保持いす(児のみ) | 24,300 | |||||||
軽金属 | 3,550 | 4 |
起立保持具(児のみ) | 27,400 | ||||||
義 眼 |
普通義眼 | 1,700 | 2 |
歩 行 器 |
六輪型 | 44,000 | 5 |
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特殊義眼 | 60,000 | 四輪型(腰掛式) | 36,000 | |||||||
コンタクト義眼 | 60,000 | 四輪型(腰掛なし) | 31,000 | |||||||
眼 鏡 |
矯 正 眼 鏡 |
6D未満 | 17,600 | 4 |
三輪型 | 34,000 | ||||
6D以上10D未満 | 20,200 | 二輪型 | 27,000 | |||||||
10D以上20D以上 | 24,000 | 固定型 | 26,000 | |||||||
20D以上 | 24,000 | 交互型 | 30,000 | |||||||
遮 光 眼 鏡 |
前掛式 | 21,500 | 頭部保持具 | 7,100 | 3 |
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6D未満 | 30,000 | 排便補助具 | 8,200 | 2 |
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6D以上10D未満 | 30,000 | 歩 行 補 助 つ え |
松 葉 づ え |
木 材 |
A 普通 | 3,300 | 4 |
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10D以上20D以上 | 30,000 | B 伸縮 | 3,300 | |||||||
20D以上 | 30,000 | 軽 金 属 |
A 普通 | 4,000 | ||||||
コンタクトレンズ | 15,400 | B 伸縮 | 5,300 | |||||||
弱視 眼鏡 |
掛けめがね式 | 36,700 | カナディアン・クラッチ | 8,000 | ||||||
焦点調整式 | 17,900 | ロフストランド・クラッチ | 8,000 | |||||||
補 聴 器 |
標準型箱型 | 34,200 | 5 |
多点杖 | 10,000 | |||||
標準型耳掛式 | 43,900 | プラットフォーム杖 | 18,000 | |||||||
高度難聴用箱形 | 55,800 | 重度障害者意思伝達装置 | 450,000 | 5 |
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高度難聴用耳掛形 | 67,300 | (注1)義肢・装具・座位保持装置の基準額については、、平成15年度交付実績1件当たり平均単価を記載 |
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挿耳型(レディ) | 87,000 | |||||||||
挿耳型(オーダー) | 137,000 | |||||||||
骨導型箱形 | 67,000 | |||||||||
骨導型眼鏡形 | 120,000 | |||||||||
車 い す |
普通型 | 100,000 | 5 |
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リクライニング式普通型 | 120,000 | |||||||||
手動リフト式普通型 | 232,000 | |||||||||
前方大車輪型 | 100,000 | |||||||||
リクライニング゙式前方大車輪型 | 120,000 | |||||||||
片手駆動型 | 117,000 | |||||||||
リクライニング゙式片手駆動型 | 133,000 | |||||||||
レバー駆動型 | 160,500 | |||||||||
手押し型A | 82,700 | |||||||||
手押し型B | 81,000 | |||||||||
リクライニング゙式手押し型 | 114,000 |
7)補装具の所有状況 平成18年身体障害児・者実態調査結果報告によると、在宅の身体障害者全体の数は348.3万人であり、補装具の所有状況は下表の通りであった。
〈表 補装具種目別所有状況(在宅の身体障害者、複数回答)〉
8)補装具の種目別公費負担割合
補装具の種目別の公費負担割合をみると、義肢装具が35%、車いすが26%と多く、以下、座位保持装置14%、補聴器13%、電動車いす9%と続く。なお、平成17年度の公費総額は国、都道府県、市町村を合わせ、約209億円であった。
〈図 補装具の種目別公費負担割合〉
(平成17年度福祉行政報告例より)
補装具評価検討会について ○補装具評価検討会開催要綱(一部抜粋)
(3) 各検討会に座長を置き、互選によりこれを定める。また、座長は検討会の会務を総理する。 |
1)制度の概要
@「日常生活用具」とは
・ 用具の要件として次の3項目を全て満たすもの。
イ 障害者等が安全かつ容易に使用できるもので、実用性が認められるもの
ロ 障害者等の日常生活上の困難を改善し、自立を支援し、かつ、社会参加を促進すると認められるもの
ハ 用具の製作、改良又は開発に当たって障害に関する専門的な知識や技術を要するもので、日常生活品として一般に普及していないもの
・ 用具の用途及び形状として次の項目に当たるもの。
イ 介護・訓練支援用具 |
ロ 自立生活支援用具 |
ハ 在宅療養等支援用具 |
ニ 情報・意思疎通支援用具 |
ホ 排泄管理支援用具 |
ヘ 居宅生活動作補助用具 |
A「日常生活用具」の支給
市町村が行う地域生活支援事業として規定されており、障害者等の日常生活がより円滑に行われるための用具を給付又は貸与すること等により、福祉の増進に資することを目的とした事業。
2)対象者・・・日常生活用具を必要とする障害者、障害児
3)実施主体・・・市町村
4)支給の仕組み・・・市町村長に申請し、市町村による給付等の決定後、給付等を受ける。
5)費用負担
@ 補助金の負担割合
国:50/100、 都道府県:25/100、 市町村:25/100
国費の財源は平成19年度の場合、400億円(統合補助金)の内数。
A 利用者負担・・・市町村の判断による。
(参考)
日常生活用具参考例 種目 |
対象者 |
|
介 護 ・ 訓 練 支 援 用 具 |
特殊寝台 | 下肢又は体幹機能障害 |
特殊マット | ||
特殊尿器 | ||
入浴担架 | ||
体位変換器 | ||
移動用リフト | ||
訓練いす(児のみ) | ||
訓練用ベッド(児のみ) | ||
自 立 生 活 支 援 用 具 |
入浴補助用具 | 下肢又は体幹機能障害 |
便 器 | ||
頭部保護帽 | 平衡機能又は下肢もしくは体幹機能障害 | |
T字状・棒状のつえ | ||
歩行支援用具→移動・移乗支援用具(名称変更) | ||
特殊便器 | 上肢障害 | |
火災警報機 | 障害種別に関わらず火災発生の感知・避難が困難 | |
自動消火器 | ||
電磁調理器 | 視覚障害 | |
歩行時間延長信号機用小型送信機 | ||
聴覚障害者用屋内信号装置 | 聴覚障害 | |
在 宅 療 養 等 支 援 用 具 |
透析液加温器 | 腎臓機能障害等 |
ネブライザー(吸入器) | 呼吸器機能障害等 | |
電気式たん吸引器 | 呼吸器機能障害等 | |
酸素ボンベ運搬車 | 在宅酸素療法者 | |
盲人用体温計 (音声式) | 視覚障害 | |
盲人用体重計 | ||
情 報 ・ 意 思 疎 通 支 援 用 具 |
携帯用会話補助装置 | 音声言語機能障害 |
情報・通信支援用具(1) | 上肢機能障害又は視覚障害 | |
点字ディスプレイ | 盲ろう、視覚障害 | |
点字器 | 視覚障害 | |
点字タイプライター | ||
視覚障害者用ポータブルレコーダー | ||
視覚障害者用活字文書読上げ装置 | ||
視覚障害者用拡大読書器 | ||
盲人用時計 | ||
聴覚障害者用通信装置 | 聴覚障害 | |
聴覚障害者用情報受信装置 | ||
人工喉頭 | 喉頭摘出者 | |
福祉電話(貸与) | 聴覚障害又は外出困難 | |
ファックス(貸与) | 聴覚又は音声機能若しくは言語機能障害で、電話では意思疎通困難 | |
視覚障害者用ワードプロセッサー(共同利用) | 視覚障害 | |
点 字 図 書 | ||
排 泄 管 理 支 援 用 具 |
ストーマ装具(ストーマ用品、洗腸用具) 紙おむつ等(紙おむつ、サラシ・ガーゼ等衛生用品) 収尿器 |
ストーマ造設者 高度の排便機能障害者、脳原性運動機能障害かつ意思表示困難者 高度の排尿機能障害者 |
住 宅 改 修 費 |
居宅生活動作補助用具 | 下肢、体幹機能障害又は乳幼児期非進行性脳病変 |
(1) 情報・通信支援用具とは、障害者向けのパーソナルコンピュータ周辺機器や、アプリケーションソフトをいう。
○ 支給基準の明確化
・ 給付の対象とする範囲の検討等
・ リハビリテーション効果を考慮した適切な使用時期の検討
○ 価格設定のルールの明確化
・ 価格の実態や構造を調査し、価格設定のルールを検討
・ 流通や市場の状況
○ 人件費コストについての検討
・ 処方料、適合技術料、フィッティング料、メンテナンス料等
○ 利用者負担の在り方
・ 利用者負担の実態を調査し、在り方を検討
○ 判定機関の在り方
・ 更生相談所の判定の実態を調査し、医療機関との連携を含めた相談・判定の在り方を検討
・ 判定に要する期間の効率化と公正中立な判定の両立
○ 貸与(レンタル)方式導入についての検討
・補装具支給の制度を全て貸与に切り替えるのではなく、貸与方式を導入することで、補装具の適切な使用や支給の効率化が図られる対象種目、対象年齢、対象障害等は何か検討
〈民間での自費貸与事業の例・・・障害児に対する補装具等の貸与〉 ○貸与方式を望む利用者の声 「第7回勉強会資料(フランスベッドメディカルサービス(株)商品企画部 田端麻衣子氏)」より
○貸与方式のメリット・デメリット 「第7回勉強会資料(フランスベッドメディカルサービス(株)商品企画部 田端麻衣子氏)」より |
・ 点検修理等のメンテナンスができることが貸与方式の大きなメリットである一方、同一製品の長期使用により費用がかさむことや、自治体の毎月の事務負担等についての検討が必要。
○ 医療保険、介護保険との整理
・ 医療保険により給付される治療用装具や介護保険により貸与等される福祉用具との整理
・ 障害者の支援機器の供給について、医療保険、障害福祉施策、介護保険の連携を保ちつつ、利用者に対してシームレスな支援体制が必要
・ 医療行為との関係整理においては、フィッティングを医療行為として整理できるか、資格等の条件付けをどう整理するか等の課題がある
7.これからの支援機器を考える視点
障害者等の生活を支援するための様々な機器があるが、これらの開発支援や普及方策、適切な選択や使用方法等を考えるときの様々な視点を総論のまとめとして整理してみる。 |
(1)社会全体のフレームづくり
○ 利用者の視点
(2)基礎研究、技術開発、産業政策
(3)人材育成、教育
(4)地域、家族、介護者
(5)住宅、交通政策、就学、就労との連携
(6)国、地方、企業の役割