7.これからの支援機器を考える視点

障害者等の生活を支援するための様々な機器があるが、これらの開発支援や普及方策、適切な選択や使用方法等を考えるときの様々な視点を総論のまとめとして整理してみる。


(1)社会全体のフレームづくり
○ 利用者の視点

  1. 利用者の機器に対するニーズを適切に汲み取り、開発につなげることが出来るシステムづくりが必要
  2. 身体障害者のみならず、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)に対する支援の視点も重要。
  3. 分野横断的な取り組み(産学官の協力)
  4. 関係省や関係機関で様々な支援機器の研究開発について助成されているが、各省・各機関の連携・協力を深めることにより効率的な助成(基礎的研究を実用的開発につなげるなど)が出来る可能性
  5. 研究・開発を行おうとする企業や大学等に対する、適切な助言・指導機関として国立障害者リハビリテーションセンター研究所の知見を活用
  6. バリアフリー
  7. 社会を物理的に構成する様々な構造物のバリアフリー化については、国土交通省の積極的な施策により徐々に広まりつつあるが、これをさらに促進するとともに、それらの資源を効率的に使用できるようなバリアフリー情報に関する支援も必要(国土交通省との連携)
  8. ユニバーサルデザイン
  9. 超高齢化社会を迎え、車両や携帯電話、一般家電品等のユニバーサルデザイン化が産業としても成立するようになってきており、様々なものにユニバーサルデザインが取り入れられてきている。高齢者だけでなく、障害者のニーズも取り入れられるような取り組みが必要
  10. 啓発、広報、情報
  11. 障害者が適切な支援機器を選択できるよう、手に取り試せる常設展示場が必要であり、さらに、使用方法の説明や指導ができる専門家の配置が望ましい

(2)基礎研究、技術開発、産業政策

  1. 研究促進、支援
  2. 利益が出にくい機器の研究開発費にかかる支援措置とともに、開発の基本的な方向性を示した上で戦略的な開発助成等が必要
  3. IT技術、ロボット技術等
  4. ITやロボット等の最先端技術の支援機器への活用については、商品化ベースとは別に基礎的研究を蓄積し、常に様々な可能性を追求しておくことが必要
  5. 基礎的な使用や技術はプラットフォームとして共通化するなどの工夫により普及が促進され、効率化が図られる等の効果がある。
  6. 産業としての支援機器
  7. 日本福祉用具・生活支援用具協会の調査によると、平成17年度の福祉用具産業(狭義)の市場規模は、全体として1兆1118億円(共用品を含む)
  8. 超高齢化社会を反映して、オムツなどの「パーソナルケア用品」(2882億円)や、補聴器などの「コミュニケーション機器」(3028億円)が堅調な一方で、「移動機器」(1060億円)や「家具・建物等」(799億円)は減少傾向
  9. 「義肢装具(広義)」は2202億円とほぼ横ばいの状況
  10. 国際的視点
  11. 国際的な規格や基準を踏まえるとともに、先進的な研究開発技術を活用した国際貢献の可能性がある。

(3)人材育成、教育

  1. 専門家に対する教育
  2. 障害者の支援機器に関連する専門家は、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、義肢装具士、言語聴覚士、リハビリテーション工学技師、社会福祉士、介護福祉士、建築士など幅広いが、支援機器について必ずしも十分な教育体制が整備されているとは言えない状況
  3. 養成カリキュラムはもとより、卒後教育システムにおいても支援機器についての十分な教育体制が望まれる
  4. 例えば、現場経験があるセラピスト等に、工学関係の修士課程等において、臨床現場と一体的に、教育できるような体制など
  5. 指導、助言のできる体制
  6. 支援機器の適切な選択や使用方法について、指導・助言できる人材の育成が重要であり、相談できる機関、体制が必要
  7. 支援機器に関わる人材の育成
  8. 支援機器に関わる民間の事業者等のスキルアップのために、例えば関係団体等による講座等の仕組みが必要
  9. 介護保険における介護支援専門員や福祉用具専門相談員等に対する民間のスキルアップ研修等において、障害者用支援機器の理解も深める等の検討

(4)地域、家族、介護者

  1. 障害者が地域で普通に暮らすためには、人的な介護のみに頼らず、支援機器や社会資源の活用を図り、社会参加を促していくことが重要であり、どの場面で介護者を活用し、自力で行うための必要な機器は何かという視点が必要
  2. 情報や移動の支援は、防災や火災等の対応など、安全・安心の地域社会づくりにも資する面がある
  3. また、少子高齢化、家庭における介護者の高齢化、介護職員の健康維持等を踏まえ、介護者を支援するための機器開発も必要

(5)住宅、交通政策、就学、就労との連携

  1. 障害者が生活基盤を整えるためには、まず、身体機能を補う補装具などの機器と住環境の整備が必要
  2. 次に、社会参加のために欠かせない情報・コミュニケーションや移動手段等の確保が必要
  3. これら生活基盤が整ってはじめて就労(通勤を伴う場合)の可能性がでてくる
  4. 通勤や通学に必要な機器として、視覚障害者には音声ナビゲーションシステム等による移動支援が必要であるし、聴覚障害者には交通機関等における音声情報を文字化する手段が必要で、肢体不自由者には自ら運転できる福祉車両等が必要となる。
  5. 就労や就学場面においては、視覚障害者にはPC周辺環境の整備、聴覚障害者には口頭での会話の代替となるコミュニケーション支援機器や、補聴器を含めた補聴システム、肢体不自由者には建物のバリアフリー化やトイレ等の環境整備等が必要
  6. 特に、障害者の就労、就学場面においては、支援機器で全て解決するものではなく、周囲の方々の理解と人的サポートが必須

(6)国、地方、企業の役割

  1. 開発支援、普及、公的システム
  2. 国は社会保障全体を見渡しながら、支援機器が公的なシステムとして必要な人に提供されるような制度を構築するほか、制度、予算、税制等を通じて、支援機器の開発普及に関する支援を行う
  3. 地方自治体においても、利用者が支援機器に関する相談を気軽にでき、専門家から指導や助言を受けられる体制が必要