U各論 |
支援機器の機能のうち、重要な機能の一つとして、『情報・コミュニケーション支援』がある。 特に、視覚や聴覚、認知等の障害のある人にとって「情報」や「コミュニケーション」は、最も基本的な ニーズでありながら、最大のバリアとなっている。「視覚障害者には点字」や「聴覚障害者には手話」と一律に考えられてしまうことがまだまだ多いが、障害のある人に対する情報やコミュニケーションの手段は、障害の種別や程度はもとより、障害の発生時期や受けてきた教育等により様々である。 しかし、合成音声や音声認識等の開発により、情報やコミュニケーションの基本的なツールである「文字」や「音声(言葉)」でパソコンを操作することが可能となり、さらにパソコンの機能を搭載し、より軽量化した端末機として携帯電話が普及する等、支援機器をめぐる情報基盤等の環境が整いつつあり、ユビキタスな視点による新たな情報やコミュニケーション支援の可能性を秘めている。 情報やコミュニケーションに関する支援機器の開発を促進し、普及を図り、有効に使えるようにするためのシステムづくりに向けて、現状と課題、及び今後の対応策について整理する。 |
現状 |
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○ 視覚障害者数は約30万人。65歳以上が64%。障害発生時の年齢は40歳以上が43%。 |
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・ 高齢に伴う見えにくさを呈する者や、疾病等により人生途中で障害が発生する者が増加。 |
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○ 点字ができる人は約1割。点字が必要なしとする人は約67%(約20万人)。 |
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・ しかしながら、点字は音声情報と比較して、読み返しができるなど保存性、検索性が高いため、その必要性は依然として高い。 |
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○ 情報支援や読書環境はボランティア等による点訳や朗読等に頼ることも多く、提供できる総情報量が十分でない(即時性、限定した情報、プライバシー)等、量質ともに問題が多い。また、点字図書館システムの見直しも必要。 |
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○ OCR(活字文書読み取り装置)や合成音声技術の進歩 |
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・ OCRにより印刷物の半自動電子化が可能となり、更に合成音声技術の向上により、視覚障害者のパソコン利用が飛躍的に進んだ。 |
![]() 「第1回勉強会資料(日本電気(株) マーケティングマネージャー 北風晴司氏)」より |
※視覚障害者は、障害の状況や情報の種類等に応じて墨字や点字、音声、拡大文字など様々な方法により情報を入手。 情報の出力は点字や音声などにより可能。 晴眼者との情報交換については、音声では問題ないが文字や図表等では変換が必要となる。 |
![]() 「第1回勉強会資料(日本電気(株) マーケティングマネージャー 北風晴司氏)」より |
※ 現状の技術ではパソコンの多様な機能を活用すれば、拡大文字、音声出力、点字出力等が可能となるが、まだまだ視覚障害者のパソコンユーザーは少ない。 一方、携帯電話を活用する方は多いが機能が限られている。 |
○ 支援機器を使いこなせない視覚障害者(特に高齢者)が多い一方で、支援機器を使いこなしている視覚障害者のコンピュータ・ネットワークへの依存度は高い。 |
開発のビジョン |
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○日本語処理技術の更なる発展(合成音声、OCR、文字入力、音声認識) |
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・ 固有名詞の処理、アクセントやイントネーション、図表等の音声表現等。 |
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○ 支援機器の簡単操作と使いやすさの向上 |
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○ 支援機器や支援アプリケーションの継続的な提供と適正価格(低価格)化 |
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○ DAISY規格の普及促進 |
※一つのコンテンツから様々なツールによる支援が可能なマルチメディアDAISY |
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![]() 「第1回勉強会資料(国立障害者リハビリテーションセンター研究所特別研究員 河村 宏氏)」より |
○ ネットワーク対応小型情報端末の開発と普及 |
○ 視覚障害者の移動(歩行)支援は、情報支援の充実と連動する。 |
○ 高機能スクリーンリーダーの開発は視覚障害者の就労支援につながる。 |
課題 |
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○ ネットワーク対応小型情報端末の開発と普及 |
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・ 視覚障害者支援アプリケーションは一般のアプリケーションより高額であり、OSのバージョンアップへの対応も遅れがちである。継続的な開発支援により安定供給が望まれる。 |
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○ 視覚障害者が支援機器や技術を使いこなせるようにするためのサポート体制 |
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・ 新しい技術を習得・学習する際、「見て学ぶ」「まねをする」ということが困難であることが多く、また、「全体像を理解する」ことは容易ではないことを考慮して、機器を知る・試す機会や、使用マニュアル等を作成することが必要。 |
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○ 継続的な就労支援、企業や健常者への効果的な教育・サポート体制 |
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・ 支援機器を効果的に活用することで、多くの分野で一般就労が可能となる。支援機器のサポートやトレーニングが重要。 |
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○ テレビ等における解説放送の普及について |
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・ 日常はもとより、災害時等の緊急時における対応が重要 |
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○ インターネットを活用した情報提供の効率化と充実 |
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・ 一つのコンテンツを作成することにより、障害特性に配慮した様々なツールによる個別の情報支援が可能なマルチメディアDAISYへの期待が大きいが、出版社にあるデジタルデータからDAISYへの変換の問題がある他、教科書等について、著作権法上の問題などの課題がある。 |
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・ 「びぶりおネット」と「ないーぶネット」の両システムの統合 |
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○ 視覚障害者のユビキタス支援環境の充実 |
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・ 読書や活字読み上げ等、携帯電話アプリケーションの充実と、ネットワーク対応簡単操作小型情報端末機器の開発と普及。 |
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・ 一般の電子文書の点字や読み上げの自動変換、文字拡大、色変換などのレイアウト等の表示方法の工夫。 |
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・ 移動支援技術の一つとして、GPS衛星や電子タグによる空間情報提供技術(国土交通省)の実用化に期待。(災害時の位置確認や都市情報としても有効。) |
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○ 若年時から高齢までの一貫した支援体制の充実 |
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・ 教育や就労の現場における有効な支援機器の利活用。 |
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・ 自治体における日常生活用具としての位置づけ(支援機器が高額となる場合や、対象種目の位置づけの地域差等)。 |
※ DAISYとは?(Digital Accessible Information Systemの略) |
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○ デジタル録音図書の国際標準で、日本訳は「アクセシブルな情報システム」 |
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・ 視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにカセットに代わるデジタル録音図書を国際標準規格として日本とスウェーデンが協同して研究開発。 |
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○ DAISY録音図書の特徴 (カセットテープの欠点であった情報検索性を改良) |
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・ 目次から、読みたい章や節、任意のページに飛ぶことができる。 |
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・ デジタル圧縮技術で一枚のCDに50時間以上の音声情報の収録が可能。 |
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・ デジタル方式のため、音質の劣化がない。 |
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○ マルチメディアDAISY図書は、テキスト、音声、点字、画像付き等のマルチメディア電子図書が可能で、即時にコミュニケーション、情報入手(記録、集積、共有、検索)ができ、視覚障害だけでなく発達障害、精神障害、高次脳機能障害等にも有効。 |
※ びぶりおネットとは? |
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○ 点字情報を中心とした検索、配信システム |
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・ 「全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)」が運営する視覚障害者情報ネットワークシステムで、全国の点字図書館やボランティア団体が製作した点訳資料や図書目録をサーバー内で集中管理して、個人や団体が自由に検索できるシステム。膨大な点字・録音書誌情報の検索をはじめ、点字データもダウンロードでき、様々な情報が得られ、また、「オンラインリクエスト」を利用すると、自宅から点字図書や録音図書の貸し出しの予約ができる。 |
※ ないーぶネットとは? |
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○ 録音図書の検索、配信システム |
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・ 録音図書の製作が、アナログからデジタルに移行されたことにより、利用者が自宅のパソコンで、いつでも、簡単な操作で、希望の録音図書を自由に検索し、ストリーミング機能を使い、内容を聴くことができる情報ネットワークシステム。日本点字図書館と日本ライトハウス盲人情報センターの蔵書を使ったサービスで、利用には専用のソフトと年会費が必要。 |
現状
○ 聴覚障害者数は約35万人。高齢等に伴う難聴者や中途失聴者数は500〜600万人ともいわれている。
○ テレビ放送などでの情報伝達についてのニーズが高い。
○ 聴覚障害は外見からは分かりにくい障害。
・ 職場や病院等の個別の場面や、役所や駅等の公的な場面における重要なコミュニケーションや、事故や災害時等の突発的な場面での情報への対応が困難。
○ 個々の状況に応じた専門性の高いコミュニケーション支援についてのニーズが高い。
○ 聴覚障害者のコミュニケーション手段は、補聴器や人工内耳等の補聴機器が約79%と最も高く、筆談・要約筆記は約25%、手話・手話通訳は約15%、読話は約6%。
○ 筆記によるコミュニケーション手段である筆談や、手書きによる要約筆記をデジタル化する媒体には期待が高い。無線ネットワークを利用した遠隔地からのパソコン(要約筆記)入力等、実用化の段階に入っている。
「第2回勉強会資料(聴力障害者情報文化センター聴覚障害者情報提供施設所長 森本行雄氏)」より
![]() 「第2回勉強会資料(日本電気(株) マーケティングマネージャー 北風晴司氏)」より |
※ 聴覚障害者は、障害の状況や情報の種類、目的や場面等に応じ、手話や文字等のコミュニケーション手段を選択して使う。 健聴者との情報交換においては、音声、手話、文字等に変換が行われる必要がある。 |
![]() 「第2回勉強会資料(日本電気(株) マーケティングマネージャー 北風晴司氏)」より |
※現状の技術では、パソコンを活用すれば、音声(言葉)を文字化、文字を手話アニメ化することは可能だが、手話を文字化すること研究段階。また、携帯電話への期待は大きいが、機能が限られている。 |
開発のビジョン
○ 文字を手話アニメーション化する技術は進んでいるが、立体感の欠如と文の滑らかさに問題があるなど、手話動画像を自動的に日本語に変換する技術は研究・検討されているものの、実用化は将来への課題。
・ 動画像から手の動き、顔の表情等の読み取りが困難(特に動画像通信の場合)。手話(特に日本手話)の言語構成(文法)は依然として研究段階。
○ 音声認識ソフトは多数開発されており、自治体における議会議事録等の取組事例もあり、特定の分野に限定した辞書を整備すれば、全文の文字化も可能だが、日常の雑音環境下での認識率の正確さや要約を機械的に行うこと等、実用上の課題が残っている。
○ 大学等において、授業等における聴覚障害者の情報保障として、インターネットに対応した「リアルタイム字幕提供システム」の実用化に向けた研究・開発が行われている。
※ 聴覚障害者の情報・コミュニケーション支援は、これまで「人による支援」が中心であったが、音声認識技術の進展に伴い、文字や動画等のコンテンツを使った「支援機器・技術による支援」の可能性が高まっている。
「第2回勉強会資料(日本電気(株) マーケティングマネージャー 北風晴司氏)」より
課題
○ 利用者が支援機器や技術を使いこなせるようにするためのサポート体制
○ 継続的な就労支援、企業や健常者への教育・サポート体制
○ テレビ等における字幕や手話付き番組の普及について
・ 音声で伝えられる情報を文字化・画像化することにより、等しく情報を伝える機器の普及により、日常だけでなく、災害等の緊急時における対応が必要。
・ 法律化により、一定の効果を挙げているが、放送法等、特に生放送(災害情報を含む)の問題が一部あり、拡充の余地あり。
・ 字幕付きの映像ライブラリーの拡充。
○ 無線ネットワークによる遠隔支援(特に遠隔パソコン要約筆記)は、総務省のユビキタスネットワーク環境整備の実現に期待が高い。
○ 汎用機器のユニバーサルデザイン化
・ 文字等による情報提供(特に災害時)には、ユニバーサルなシンボル表示や簡易な表現がなされるべきである。
・ シンボルマーク制定には、国際標準化とともに、日本独自の文化や風習・慣習等の両面を考慮した検討が必要。
現状
○ 推計1万3千人だが実数把握が困難。全国盲ろう者協会のサービス受給者は767人。
○ 盲ろう者にアクセスが難しい機器、メディアの例
・ テレビ、ラジオ、新聞、一般郵便物、電話、ファックス など。
○ コミュニケーション方法は盲ろうのタイプにより、手話や指点字など。
・ 盲ろう者同士ではコミュニケーションがとれず、通訳者や介助者が必須である。
・ 点字ディスプレイやスクリーンリーダーによる情報取得、パソコンや携帯電話による電子メールの利用も可能。
○ 盲ろう者にとっての不便は、「移動」、「情報の入手と処理」、「他者とのコミュニケーション」の3つ
・ 人的支援と技術支援があり、人的支援(通訳者等)が90%を占めるが、財政面やプライバシー保護等から人的支援には限界があり、支援機器やメディアによる支援も重要。
開発のビジョン
○ 点字ディスプレイと画面点字化ソフトウエアによるパソコンの利用
○ 携帯電話のバージョンアップに伴い、盲ろう者が携帯電話を使えなくなる問題がある。
・ 視聴覚障害者のためのコミュニケーション機器として、ある程度の機能を限定し、最低限必要とする機能を、専門家会議等でとりまとめることも必要ではないか。
○ 点字PDA(携帯情報端末機で個人向けの小型管理ツール)の活用
○ 既存の視覚障害者用ソフト・ハードを、盲ろう者対応とすることも重要。
○ ローテク技術(触覚インターフェースなど)の活用
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「第2回勉強会資料(東京大学先端科学技術研究センター研究員 大河内 直之氏)」より |
課題
○ 支援機器や技術の広報啓発(手にとって試せる機会等)
○ パソコン等の操作を教える指導者の育成や訓練機会の拡大
○ 盲ろう者のニーズを反映させた機器・ソフトの開発
○ 地上デジタル放送化における、盲ろう者ニーズの反映
○ 自治体における日常生活用具としての位置づけの問題