「第3回勉強会資料(東京大学先端科学技術研究センター特任助教 近藤武夫氏)」より
○ 認知障害者の障害特性
・ 家庭・学校・職場でのトラブル、いじめ、ハラスメントを受けやすい。
・ 自信喪失や将来への絶望等により、二次障害(精神障害、うつ)が発生する場合もある。
○ 発達障害に対する専門的な治療や訓練により改善するが、標準レベルには達しない等の限界があり、自信喪失等により社会からドロップアウトしてしまうこともある。
○ 米国の大学進学率は、障害のある学部生は11%で、そのうち45.7%が学習障害。彼らに対する支援として、録音図書、ノート作成者の提供、試験時間延長等のサービスが充実。
一方、日本の大学等における障害学生数のうち、発達障害は2.6%。
〈支援技術を用いた多様な認知障害への支援〉
開発のビジョン
○ 障害特性に合わせた環境調整。
○ テクノロジーによるエンパワーメント。
○ 障害特性の幅が広く、さらに個人差が大きい。したがって、特定の技術により全ての障害者を支援することは容易ではなく、個別対応機能が重要。
○ 個々の障害特性に応じた支援機器の開発は容易ではないが、これまで手動のものや手作りのものをデジタル化、また、コンピュータで実現することが有効。(例えば、子ども向けカレンダー・絵カードや学習ツールなど。)
○ 読み、書き等、特定の領域をテクノロジーによるエイド(援助)で社会参加(就労、就学)が可能に。
・ 例)「ノイズキャンセリングヘッドフォン」、「テキストリーダー」等。
○ GPSや電子タグ技術、ユビキタスネットワークの発達により、危機回避などの支援も可能に。
○ 障害特性を生かした、才能ある人材を発掘するという視点
※ 手作りのものが製品化、汎用化され、当事者の自立や社会参加を促進するだけでなく、介護者等の負担を軽減するなど、様々な場面での活用が期待できる。
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「第3回勉強会資料(東京大学先端科学技術研究センター特任助教 近藤武夫氏)」より |
課題
○ 認知障害、発達障害向けの支援機器供給・評価システムの確立
・ 支援機器の情報提供(データベース化等)。
・ 開発・改良への助成。
・ 認知障害者向けの機器評価システムの構築等
○ 支援機器利用の啓発、利用推進
・ 医療、教育、リハビリ、職業訓練等における環境の調整。
・ 能力評価において、環境調整や支援機器の活用等、「合理的配慮」を前提にできないか。
○ マーケット規模の拡大化
・ 要介護認定者約400万人の半数は認知症の症状があるともいわれ、高齢化が進む中、支援ニーズはさらに増加。今後、支援機器のマーケットでは認知症の分野が大きくなり、例えば、独居者への服薬管理、パソコン講座や携帯端末ナビを利用した外出等、孤立などの二次的症状の予防効果にも期待。大きなマーケットではユニバーサルデザイン化で対応が可能。
・ 当事者支援だけでなく、施設における職員間の情報共有やモチベーションの保持にも効果的。また、介護者の負担を軽減することで、当事者の自立を促すことができる。(当然ながら、当事者の自律を促すことで、介護者の負担軽減につながることもある。)
(発達障害)
現状
○ 「広汎性発達障害」とは、社会性、コミュニケーション、イマジネーションの質的な差異がみられる者
○ 非言語系(抽象的なもの、目に見えないもの等)の理解が乏しい
・ 自閉症等には視覚的な情報が有効といわれている。
○ 知的障害者は全体的に知的能力の問題がある上に、多様性があり、専門の支援機器がない。
・ 汎用性とカスタマイズの柔軟性との両立、簡易な操作性、機器の処理速度などがポイント。
開発のビジョン
○ 発達障害児・者が理解しやすい日常生活支援の工夫
・ 例)ビジュアル化、シンボル化による予定確認等。
○ 家庭や学校等とお互いにツールを活用することで、コミュニケーションの方法を学ぶ(活発化する)
※ 携帯電話の画像や音声を使ってビジュアル化し、スケジュール管理に活用している例。
家庭や学校において、学習やコミュニケーションのツールとしても活用している。
課題
○ 障害者向けの携帯端末機は一般よりも高額。
○ 携帯電話の活用における電磁波の問題(病院での安全な使用など)。
○ 発達障害者の活用事例の紹介や、発達障害者が利用することを想定したソフトの開発。
○ マーケットの可能性を提示する等による、開発環境の整備。
(高次脳機能障害)
現状
○ 高次脳機能障害の指す範囲は定義によって異なる。
○ 日本の高次脳機能障害者数は約30万人(高次脳機能障害支援モデル事業における推計値)。
○ 身体障害あるいは精神障害と認定され、福祉サービスの対象となっていたケースもあるが、制度の狭間に落ちてしまっているケースもある。
○ 高次脳機能障害にみられる症状の例。
・ 記憶障害 ・ 注意障害 ・ 遂行機能障害
・ 半側空間無視 ・ 地誌的障害 等
開発のビジョン
○ これまでの取組み
・ PDA用支援ソフトの試作、改良により、成果の一部は既に市販化(H16.7〜メモリアシスト)。
・ スケジュールやアラーム管理、画像等を利用した手順支援(ナビゲーション)機能の活用。
○ 高次脳機能障害支援普及事業の開始(平成18年〜)
・ 就労機会の増加による、支援機器の有効活用の場の拡大。
○ 情報インフラ整備のプロジェクトの利用
・ 国土交通省の「自律移動支援プロジェクト」やNEDOの「障害者等ITバリアフリープロジェクト」などでも情報技術の支援研究は行われているが、主に視覚・聴覚障害、肢体不自由者を想定した研究がメインであり、認知障害者への対応も望まれる。
※ 高次脳機能障害者用に開発された作業手順指示やナビゲーション機能がある携帯端末用ソフト・・・一部は既に市販化され、職場等で活用されている。
課題
○ 支援のマニュアル化が必要
・ 機器開発のみならず、マニュアルを作成することにより、中間ユーザー(指導員、教師、家族、医師等)への理解を深める。
視覚障害者、聴覚障害者、盲ろう者、認知障害(発達障害、高次脳機能障害等)にとって、「情報とコミュニケーションの支援」のニーズは極めて重要であり、IT技術の活用等によって、効果的かつ利便性の高い支援機器をできるだけ低価格で提供する方策が求められている。 |
1)開発促進の観点
1 障害特性に応じた利用可能な機能・ツールの確保
・ 新技術創出的な開発ではなく、目的に合わせた技術融合的な開発が肝要。
・ 合成音声、音声認識、点字化等、基礎的な技術は既にある。ニーズに合わせた使い勝手の良いものをモバイル端末化することが必要。
・ ポイントとして、「メインストリームからの技術移転」が主要な流れである。
・ メインストリーム技術の「アクセシブル化」(ほかのモードへの変換や多国語への翻訳など)が自然と求められ、この流れを活用してきたのがこれまでのICT開発。
・ 音声認識技術は多数の人の発音を認識する方向に向かっており、脳性麻痺などで特殊な発音しかできない人の音声認識などはどうしてもオーファンテクノロジーとして残る。
・ 一般機器のバージョンアップの際に、現在、障害者が使用している機能の継続性を担保する仕組みの構築や開発者側へのはたらきかけ(例えば、携帯電話の場合は開発用情報公開規制への対応等)が必要。
2 開発の効率化による機器の低価格化
・ 汎用機器の利用・機能拡張により、コストダウンを目指す。この場合、各種規格策定段階から参加することが必要。
3 開発者側と利用者側の双方向コミュニケーションの場
・ 技術者が新しい技術を提示し、利用者がニーズを提示することで、支援機器の実現性を検討する場を設置する。
2)普及と利用促進の観点
1 障害者に対する支援機器の情報提供
・ 支援機器の利用を体験する場の提供。
・ 開発者へのフィードバックによる利便性の向上。
2 障害者に支援機器(PCを含む)の使用法を指導すること及び指導者の養成
・ 支援機器の開発が多様化、高度化する中、支援機器の使用方法を教えるサポートが重要。特に、プロのトレーナーの養成が必要。
3 既製品、汎用機器を活用することによる低価格化と流通の拡大
・ 例えば、「視覚障害者用の携帯電話」をつくるのではなく、既存の携帯電話を視覚障害者も使用することができるようにユニバーサルデザイン化する。