支援機器の機能のうち、情報・コミュニケーションと並ぶ重要な機能として『移動の支援』がある。 ここでは、装具、義肢、車いすのほか、福祉車両について現状と課題及び今後の対応策について整理する。 |
現 状
○ 装具とは:腕(上肢)や脚(下肢)、胴体(体幹)の働きや動きに障害のある者が装着して、患部の保護、回復の補助、変形の防止、運動の補助などを目的として使用するもの。
○ 下肢装具の対象疾患
・ 脳血管障害後遺症による片麻痺は、137万人と言われており、今後も増加傾向と言われている。
・ その他、脊髄損傷不全麻痺、ポリオ、末梢神経麻痺、脳性麻痺等が対象。
開発のビジョン ○ 機能的な継手やデザインの追求 ○ 例:油圧ダンパー下肢装具 ・比較的歩行能力が高い人に適応がある。 歩行の改善に有効である 靴がはきやすい(チタン合金・・・肉薄) 装着がしやすい(デザインの工夫) 軽量である 半既製品で迅速に対応できる |
![]() 「第5回勉強会資料(国際医療福祉大学大学院教授 山本澄子氏)」より |
課題
○ 脳血管障害のリハビリテーションの在り方
・ 現状(次頁左図) 回復期には装具未使用(または不適合装具使用)の歩行訓練
→回復度が低い。
・ 理想(次頁右図) 回復期から身体機能に合わせた装具の使用(装具療法)が効果的。
→回復期に装具を使用することで回復度が高い。
将来装具を必要としなくなるケースもある。
不良な歩行パターン等による二次的な障害も抑制できる。
![]() 「第5回勉強会資料(国際医療福祉大学大学院教授 山本澄子氏)」より |
○ 装具の概念を変える必要がある
・ これまでの装具の概念・・・足りない機能を補う。
→障害が固定してから支給。オーダーメイド品。
・ 新しい装具の概念・・・早期使用により機能の回復を目指す。治療目的。必要な時期に使用。
→障害固定前に支給あるいは病院リハ室に配備。ある程度の汎用性がある半既製品。
○ 使用時期
・ 回復期、場合によっては急性期に使用・・・使用場所は病院が主体となる・・・医療保険
・ 維持期に使用・・・使用場所は自宅、地域が主体となる・・・障害福祉施策
○ 入手方法等
・ 補装具費として支給(回復段階にあっても暫定的に障害認定し、補装具費の支給で対応するなど)
・ 治療用装具として医療保険適用(治療の一環として位置づけるなど)
・ 病院リハ室に配備(リハビリテーション室の装具配備への助成など)
等が考えられる。
○ 治療者サイド(医師、理学療法士等)への情報提供や教育機関への働きかけが必要
・ 先端装具等の情報提供による普及促進。
○ 装具療法および高機能装具の適合調整費の設定
・ 高機能装具の適合調整費用に対する公費負担の検討。
現状
○ 義肢とは:腕(上肢)や脚(下肢)を失った者が装着して、失われた外観や動きを取り戻すための器具機械。大きく分けて、腕(上肢)を失った者が装着する「義手」と、脚(下肢)を失った者が装着する「義足」がある。
○ 例えば、通常の義足歩行や立ち座り動作では、健脚側に負荷が大きく、長期間の使用により関節痛などの二次障害を生じる。現場職種等で活動性の高い方や健脚側にも問題がある方(変形性膝関節症等)が高機能義足を利用することにより、二次障害も抑制でき長く働くことができる例もある。
開発のビジョン
○ 先端的な義肢の例
「筋電義手」※移動支援機器ではないが先端的な義肢の例としてここで紹介する。
利点:外観と機能の両方を備える。目視できる位置であれば把持可能、把持力(10kg)
欠点:重い、断線による故障、巧緻性の低下、誤作動、操作音
→バッテリーの軽量化、巧緻性の向上、静音設計等により、欠点の克服ができつつある。
「ハイブリッドニー」 |
![]() 「第5回勉強会資料(ナブテスコ(株)福祉事業推進部長 児玉義弘氏)」 |
現状 ○ いわゆる「標準型車いす」は時代遅れのもの ・ 車いすは全身性障害や両下肢機能障害など、比較的重度の障害者が使用する移動機器であるが、我が国においては1945年型のいわゆる「第二世代の車いす(右図)」が未だに多く、障害者等が体型に合わない車いすに無理矢理乗せられているケースがある。 ・ 障害者が、長時間、快適に座り続けることを可能とするため「シーティング技術」という概念が発展してきた。「シーティング」には、医学的あるいは工学的等の専門的な関わりが必要。(右下図) 開発のビジョン ○ 最も重要な機能 ・ Driving(軽い操作性) ・ Seating(座位の快適性) ・ Lifting(車載の容易さ) ○ 先端技術で「出来ない」を「出来る」にする ・ 重度の障害のある人こそ先端技術を必要としている。「出来る」力を最大限活かし、電動車いすを操作出来る技術の開発が重要。(下図) |
![]() 「第6回勉強会資料(パンテーラジャパン(株)代表取締役 光野有次氏)」より |
・重度障害者の自立移動の実現のための研究 ![]() 「第6回勉強会資料(国立リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部長 井上剛伸氏)」より |
・不明瞭な音声でも認識出来る技術(音声操作) ・運動障害のある方の動きでも認識出来る技術(ジェスチャー操作) ・微弱な筋電でも検出できる技術(筋電操作) ・微弱な力でも検出できる技術(微力操作) |
・安全性を高め、行動範囲を広げるための研究 ・ 危険を察知する技術(全方位ステレオビジョン) ・ 情報・通信技術と移動機器との融合(オンデマンドバス、交通システムとの連携) ・ 悪路走行、階段昇降が可能な技術(二輪走行)
・開発のプロセス ・ 技術シーズや障害者の現状を、具体的な開発課題の設定へとつなげる。当事者のプロジェクトの参加により新たな技術開発課題を設定し、より実用的なものへとブラシュアップしていく。 |
・重度障害者の自立移動の実現のための研究
![]() 「第6回勉強会資料(国立リハビリテーションセンター研究所福祉機器開発部長 井上剛伸氏)」より |
○ 車いすのシート部分とベース部分(フレーム、車輪駆動部等)の切り分け ・ これまでの概念として、車いすは「車輪のついた椅子」という一体的なものであったが、身体への適合が必要なシート部分と、ベース部分とを切り分けて考える必要。(右図は座位保持装置のシートと車いすフレームを持つ車いすの例) ○ 座位保持装置の適応における指針が必要 ・ 障害の状況に応じた座位保持装置や車いすシート部分の統一的な指針が必要 |
![]() 「第6回勉強会資料(株式会社有薗製作所 狩野綾子氏)」より |
課題
○ 障害者等が体型に合わない車いすに無理矢理乗せられているケースがある。
〈車いす支給のシステムの見直しを検討〉
・ 車いすの基準告示の見直し
・ 車いすの規格や安全基準を整備し、一定水準の機器を支給
・ 「シート部分+ベース部分=車いす」の概念への変更
・ 「シーティング料」に相当する報酬の検討
○ オーファンプロダクツ(ユーザー数が少ない支援機器)への対応
・ 重度の障害のある人こそ先端技術を必要としている。
・ ユーザー数が少なく、企業の開発意欲が低い。
・ 企業の開発意欲を高めるための工夫が必要。
現 状
○ 福祉車両のニーズ
・ 障害者が自ら車を運転することのニーズ。
・福祉施設や家庭において、送迎や外出を行う際の介護のニーズ
![]() ○ 福祉車両の市場はこの10年間で約5倍に拡大。 「」第6回勉強会資料((社)自動車工業会福祉車両部会 児玉芳記氏)より
○ 福祉車両は数多くの種類を揃え、多様なニーズに対応している。 |
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「第6回勉強会資料((社)自動車工業会福祉車両部会 児玉芳記氏)」より |
開発のビジョン
○ 日本と海外との違い
・ 欧米では、総合的な制度の下で、障害者・高齢者の移動をサポートしている。
・ ハード面は架装メーカーが主体。
○ ハード面の商品改良/革新
・ 商品改良/革新により、一層の普及が見込まれる。
○ 必要とする人に必要な移動手段(福祉車両)が行き渡るためのインセンティブ(助成金等)の充実。
・ 現状の優遇、助成等
〈福祉車両を必要とする人への購入助成又は貸付〉
助成:自操式のみ地域生活支援事業で対応、ただし助成額は約10〜15万円
貸付:生活福祉資金で対応、「障害者自動車購入費として200万円以内」・・・十分な周知が必要
【架装内容とプラス価格(概算)】
車いす兼用型のシート 50〜60万円
運転補助装置 20〜30万円
車いす用リフト 70〜100万円
車いす用スロープ 35〜70万円
回転シート 10〜15万円
昇降シート 30〜50万円
※どこまでを助成するか、支給対象をどう明確化するかの検討が必要
・ 福祉車両への税制面の優遇内容
・福祉車両の消費税非課税
・自動車税、自動車取得税の減免
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(1) 規格基準等
○ 義肢装具の安全基準についての検討
(2) 支給システム、価格設定
○ 支給基準
○ 価格設定のルール
○人件費コスト(処方料、適合技術料、フィッティング料、メンテナンス料)についての検討
○ 貸与(レンタル)方式の導入についての検討
○ 医療保険、介護保険との整理
(3) 普及・情報提供
○ 利用者等に対して助言・指導等を行う機関の在り方
○ 利用者への情報提供の在り方
○ サービスの質の向上、人材育成