盲人用に工夫・改良した鍼灸用具

理療教育部 芦野純夫

1.睛盲の技術差を埋める手だてとして

 鍼灸が江戸時代に杉山検校により盲人の技(わざ)として確立されたことは、障害者の職業リハビリテーションにおける世界的な先駆であり、その伝統は盲学校・センターでの理療教育として保持されてきた。しかし戦後、特に昭和46〜47年頃の「鍼麻酔報道」を契機に睛眼鍼灸師の進出が著しく、専門学校でも大卒者が既に大半を占め、鍼灸大学大学院では鍼灸学博士すら輩出している。国家試験は殆ど問題でない彼らは余力を実技教育に注いでおり、低能力者にも可能な限り機会を与えて国試合格を目標とさせている理療教育との、臨床の現場で明らかになる実力差は「福祉」で埋め得る筋合いではない。その対策の一環として、当センターの持ち味を活かし盲人が使いこなせる鍼灸用具の開発を行ってきた。

2.刺鍼は全盲でも訓練で確実に行える

 用途に応じて種々の鍼があるが、江戸末期の葦原検校は著書『鍼道発秘』で毫鍼・圓利鍼・三稜鍼だけを駆使して一切の治療を行っている。今日では刺入をしない皮膚鍼や真皮内に留める皮内鍼・円皮鍼も重要であり、全盲者でも練習を積めば使えるよう工夫した。

  1. 毫鍼 本来の刺し方「撚鍼法」を、杉山検校が盲人に用い易いよう「管鍼法」に改良したが、便利な反面で斜刺や皮内でのデリケートな操作が出来ない等、失ったものも大きい。抜管後に押手で鍼体を摘むために、衛生上の問題も来している。それらを一挙に解決する、押手内に納める折衷型の撚鍼法用「ラッパ鍼管」を考案した。
  2. 圓利鍼 やや太めの鍼で最も汎用される。多賀製作所のチャック式昭和鍼管をベースに鍼柄を大型にして、雀啄用スプリング、刺入深度の確認リング、鍼管ホルダー、経穴部に的確に刺入させるロート鍼管を装着させ、刺入を飛躍的に容易にさせた。
  3. 三稜鍼 鍼術の重要な一分野である井穴刺絡には、塩野製作所のスプリング刺絡鍼に内径6mmのアクリル管を装着して吸角とし、切断面は磨いてマニキュアで覆った。
  4. 皮膚鍼 補・寫の弁別用に考案した磁石、ダイオード等を装着したものを製作した。
  5. 皮内鍼 ピンセットを用いることで、清潔で確実な水平刺が行えるメソードを完成。
  6. 円皮鍼 電気探索器の尖端に導子を装着して、正確な良導点への刺鍼を可能にした。

3.「国リハ式」施灸具は最終モデルに

 既報(小比賀)した石粘土製の施灸具を、持ち易いよう大きめにして耐熱耐水の塗装と送風に改良を加えて艾の燃焼を確実にし、全盲にも自在な半米粒大透熱灸を可能とした。




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