気管切開カニューレ装用者の音声確保

第二機能回復訓練部 白坂康俊

 はじめに:気管切開でカニューレ装用している場合,通常では,カニューレ開口部から呼吸をしており,当然発声を意図しても,気流が喉頭へ流れないために,音声確保が困難である.指などで開口部を閉ざせば発声可能となるが,上肢の運動制限があれば,本人がそれを行うことができない.その結果,コミュニケーションに支障が起こり,医療的なケアに不都合が生じるだけでなく,様々な心理的な問題も起こってくる.特にカニューレ装用が長期化する場合や,恒久的に人工呼吸器依存などの場合,コミュニケーションが困難な状態が続くために,障害受容やQOL確保などリハビリテーションの成否にかかわる問題が生じてくる.しかし最近では,スピーキングカニューレなど,カニューレ装用でも音声確保できる方法が呈示されている.我々は,この3年間で気管切開カニューレ装用者の音声確保を6例の症例で試みたので報告する.

 症例:高位頚髄損傷4例(2例が人工呼吸器完全依存,2例が部分依存),脳血管障害2例(1例は軽度,1例は中等度以上の構音器官の運動障害をともなう)であった.

 方法:音声確保のために用いた方法は,カニューレ開口部に一方向弁であるバルブを装着する方法が4例,カフ上部の吸引用をかねるチューブに気流を流す方法が1例,2重構造のカニューレで外筒上部に穴があいており,発話時は内筒をはずし,開口部を蓋で閉じることにより,喉頭への気流を確保する方法が1例であった.いずれもカフは収縮した状態で使用した.

 結果:発症から,音声確保を試みるまでの期間は,5例が2年以内,1例のみ8年経過していた.この1例については,8年間全く発声しない状態であったために,約3か月の発声訓練を要したが,他の5例は,それぞれの方法を実施して後,速やかに音声確保がなされた.全例で,音声(有声音)の確保には成功したが,中等度以上の構音器官の運動障害をともなった1例では,構音レベルの問題によって,発話明瞭度の改善には限界があった.他の5例は,音声によるコミュニケーションが可能になり,音声確保の手段としての有効性は認められた.しかし,障害受容などの問題で,日常のコミュニケーションにまで範化できない例があった.




前頁へ戻る 目次へ戻る 次頁を読む