ロービジョン者の階段視認性向上に関する研究

学院 視覚障害学科 小林 章
(福)聖明福祉協会 村上美樹
ブロス工業株式会社 望月保男
東京女子大学現代文化学部コミュニケーション学科 小田浩一

 階段を通過することは、ロービジョン者にとっては大きな課題のひとつである。低視力、透光体混濁、視野狭窄を持つ人には階段の発見、降りる際の段鼻の確認が困難である。段鼻にコントラストの高いラインを入れることで、この困難さが軽減できるのではないかという仮説のもとに、本研究を実施した。

 実験は20歳代8名、59歳1名の健常者にロービジョン用シミュレーションゴーグルを着用させ、被験者として行った。シミュレーションの種類は透光体混濁群1種類、求心性視野狭窄プラス視力低下群2種類(5度、3度)を使用した。階段はJR東京駅八重洲南自由通路のものを使用した。途中で180度折り返す合計28段の階段である。その階段の段鼻にビニールテープを貼って踏面のコントラストを変化させた。階段の色は無光沢の褐色、テープ色は白、黒、赤3種類、太さは19・(視角43.5分)38・(視角87.1分)の2種類のものを用意した。コントラストは、各テープ敷設後に輝度計で測定し、(最大輝度―最小輝度)/最大輝度+最小輝度)の式により求めた。

 試行に際し被験者には、「手すりを使わない、なるべく視覚で確認しながら降りる、勘に頼らない」よう教示し、1階の計測地点を片足が通過してから、地下1階の床に両足が着くまでの所要時間を計測した。

 実験の結果、透光体混濁のシミュレーションについては、コントラストが高いほど階段を早く通過できる傾向が見られた。分散分析をした結果、テープの幅に関係なくコントラスト効果は1%水準で有意であった。テープ幅の違いによる歩行速度には差が見られなかった。視野狭窄プラス視力低下のシミュレーションについては、コントラストをつけることで階段の通過速度は速くなったが、コントラストの程度による違いは見られなかった。分散分析の結果、コントラスト効果は1%水準で有意であったが、色によるコントラスト要因を多重比較した結果、有意差はなかった。しかし、階段を降りる際の安心感に関する被験者の内省報告では、視野狭窄の場合、コントラストの低い赤のラインは不安であるという報告が多かった。




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