脊髄損傷者の体力

病院 診療部
病院 第一機能回復訓練部
病院 診療部 研究検査科 臨床検査技師
小宮山千春 ・高木道人・草野修輔
北村昭子・藤本茂記
石井昇・渡司雅代

【目的】
 外傷性脊髄損傷者では、受傷により引き起こされる麻痺の影響だけでなく、急性期には骨折部の固定性を得るために全身的な安静を強いられ、 短期間でも全身持久力の低下が引き起こされ、その後のリハビリに影響を与える。
 このため脊損者のリハビリにおいては、筋力増強訓練やADL訓練だけでなく、それらの訓練の基礎となる体力向上訓練にも力を注ぐ必要がある。 その際に運動療法が安全で有効に行われるためには運動負荷テストを施行し、測定された結果をもとに適切な運動処方を行う必要がある。
 脊損者の運動負荷テスト様式としては、上肢エルゴメーター負荷法、車椅子トレッドミル負荷法、車椅子エルゴメーター負荷法が報告されている。 しかし、これらの運動負荷テストを行うためには特殊な検査機器と多くの人数、長い検査時間を必要とするため、繰り返し施行することは難しく、 定期的な運動処方の変更に活用するには問題がある。
 そこで、我々は上肢エルゴメーター負荷法を用いて、脊損者の全身持久力を測定し、同時にフィールドテストとして3分間走テストを施行し、 両者の関連について検討し、検査機器を用いた全身持久力評価の代用としてフィールドテストが活用可能かどうか検討したので報告する。


【対象および方法】

  1. 対象…受傷から平均63.3ヶ月経過した男性の外傷性胸腰髄損傷者30名(平均年齢30.0歳;障害レベルはTh4―L3=胸腰損群) および健常男性11名(平均年齢27.3歳=健常者群)を対象とした。
  2. 方法…上肢エルゴメーター負荷装置は、車椅子座位にて容易に負荷が可能となるように作製した負荷装置を用いた。 呼気ガス分析は、ミナト社製酸素摂取量測定装置を用いてブレースバイブレースにて呼気ガスデータを記録した。 その他、連続的に心拍数をモニターし、終了時の負荷量PWC(watts)を測定した。
  3. フィールドテストとしては、持久的車椅子走行能力として3分間走行テストを行った。

【結果】

  1. 運動負荷終了時データでは、peak VO2が胸腰損群で23.5ml/kg/min、健常者群で30.7ml/kg/minであり健常者群で有意に高値を示した。 peak PWCおよびpeak HRではいずれも2群間に有意差は認められなかった。
  2. 全身持久力としてのpeak VO2とフィールドテストとしての3分間走行距離との間には、有意の一次回帰式が示された。

【結語】
 フィールドテストは全身持久力としてのpeak VO2との有意の関係があり、簡便な体力評価法として有用と考えられる。




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