言語未獲得のダウン症児の言語発達
〜AAC(補助・代替コミュニケーション)の活用まで〜

病院 第二機能回復訓練部 倉井成子・越一恵

 重度の知的障害があるダウン症児を対象に行った10年間の言語訓練の経過を報告する。

【症例】

 ダウン症男児、1985年・6月生、正常分娩 定頚8ヶ月、始歩3歳訓練開始時評価(5:6):コミュニケーション態度非良好(視線が合わないなど)、記号形式−指示内容関係 段階2−2 A群(ことばは未獲得だが事物の基礎的概念はある程度学習している)、基礎的プロセス(動作性課題や聴覚的記銘力、音声・動作の模倣力など)1歳後半。日常生活では、状況の中で簡単な指示の理解は可。自己の要求自体も未発達で人への伝達行動は少なかった。物をそれらしく扱う遊びは殆どなく細長い物を目の前で揺らす常動的行動が目立った。日常生活の基本的習慣はほぼ自立。養護学校幼稚部年長組在籍。
 言語訓練では、色・形の弁別などを中心にした基礎的プロセスに関すること、身近な物に関する基礎的概念を形成しつつ身振り・音声で働きかけるなどの記号形式−指示内容関係に関すること、遊びの広がりを含め人との関わりを促すコミュニケーション態度に関することについて働きかけた。家庭では母親が言語を含め全体的な発達を促すべく熱心に関わってきた。学校側の適切な指導も受け、現在16歳(高等部2年)、T群(記号形式−指示内容関係段階3−2、単語の理解は可能だが音声言語による表現はできない)になり、視線が良く合い、指示の理解が容易になり、やりたいことや食べたい物などに関する要求も明確になるなどコミュニケーション態度は改善している。日常の意思疎通を音声言語(単語レベルの理解)とコミュニケーションノートを使用して行っている。
 重度の知的障害に伴う言語未獲得であった本症例の言語訓練から以下のことが示唆された。1.物事への関心を高め他者との関わりを楽しみ、人に要求を伝える気持ちを育てまたその手段を教えること(物の提示・ハンドリング・身振りなど)が重要であること、2.意思疎通手段として音声言語のみならず、絵カードや写真が使用できるよう絵の解読を促すことも重要であること、3.学童以上のケースでも長期的働きかけが必要であること。




前頁へ戻る 目次へ戻る 次頁を読む