ヒト脊髄運動ニューロンに存在する自律的活動モード

研究所 野崎大地・河島則天・荒牧勇・中島八十一・赤居正美・中澤公孝

 従来、脊髄運動ニューロンの活動は高位中枢・末梢からの神経性入力があることにより初めて生じるものと考えられてきた。ところが近年、主に動物実験によって、脊髄運動ニューロンに一過性の興奮性入力を加えると、入力停止後も持続的に活動するという一種の自律的活動モードに移行する場合があることが示されてきた。ヒトの脊髄運動ニューロンもこのような活動モードを持つかどうかを検証するため、本研究では3つの実験をおこない、それぞれ以下のような結果を得た。


実験1: 膝窩部の脛骨神経に経皮的な電気刺激(幅1ms)を50Hzの頻度で、2秒間程度与えると刺激停止後もヒラメ筋に持続的な筋活動が生じた。被験者は知らされない限り自分のヒラメ筋が活動していることに気がつかなかった。


実験2: 実験1の方法で生じた持続的筋活動(以下持続的筋活動)中に、条件電気刺激(単発パルス、幅1ms)を総腓骨神経に加えると、ヒラメ筋の筋電図レベルは抑制を受けた。


実験3: 持続的筋活動中の大脳運動野の活動度を機能的MRIにより測定した。また、同レベルの筋活動を随意的に発揮した場合についても同様な測定をおこなった。その結果、随意的筋活動時には認められた運動野の活動が持続的筋活動時には認められなかった。


 実験結果から得られる結論は以下のとおりである。


1.ヒラメ筋の脊髄運動ニューロンと興奮性の結合をもつIa求心性神経線維に一過性の高頻度電気刺激を加えることにより、持続的な不随意筋活動を誘発することができた。


2.この持続的な筋活動はヒラメ筋の運動ニューロンと抑制性の結合をもつ総腓骨神経への電気刺激によって抑制された。筋線維そのものが運動ニューロンとは関係なく持続的に活動しているのであれば、このような抑制は生じないはずである。したがって、持続的筋活動は確かに脊髄運動ニューロンの持続的活動によって生じているものと考えられた。


3.随意的筋活動時に認められた大脳運動野の賦活が持続的筋活動時には認められなかった。この結果は、持続的筋活動が運動野からの指令とは無関係に生じていることを示す。


4.以上のことを考慮すると、脛骨神経への一過性高頻度電気刺激によって誘発されたヒラメ筋の持続的筋活動は脊髄運動ニューロンの自律的活動によって生じている可能性が高い。




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