看護部外来 | 道木恭子・多田由美子・西川民子 |
病院泌尿器科 | 牛山武久・永松秀樹 |
防衛医科大学校病院産婦人科 | 古谷健一 |
脊髄損傷女性は一般の女性と比較して産婦人科領域の受診率が低く、子宮癌検査や感染症などの検査を受けていない女性が多い。これは、脊髄損傷者が女性特有の健康問題に関する予防的ケアが受けられていない状況であることを意味し、健康を保持していく上で重要な問題である。 また、脊髄損傷女性の産婦人科領域での医学的ケアに関する文献は少なく、受傷後の無月経、閉経、骨粗鬆症、子宮癌、子宮筋腫、性感染症、腟感染症などに関する詳細なデータは日本においては見当たらない。こうした現状を踏まえ今回、国リハ産婦人科外来を受診した脊髄損傷者を対象とした調査を実施し、婦人科領域における問題と今後の課題について考察したので報告する。
1992年1月から2002年8月までに産婦人科を受診した患者を対象として、医療情報の記録を もとに調査を行った。
1.産婦人科を受診した患者数は190人で、うち脊髄損傷者は37名であった。
2.受診目的では「帯下の増加」が最も多く30名であった。受傷後の「続発性無月経」で受診された方は4名、「不妊症」に関する相談の方は3名、「妊娠」のために受診された方は4名であった。
3.受診者のうち、受傷後に国リハ以外の産婦人科を受診した女性はいなかった。他の産婦人科を受診しなかった理由として、「内診台への移乗困難」、「外来の中を車椅子で移動できない」、「自覚症状がない」などの意見が聞かれた。
4.受診結果については、「帯下の増加」を主訴に受診した方のうち26名が「腟炎」を発症していた。その他、早期の治療を要した婦人科疾患としては、「子宮筋腫」が3名、「卵巣嚢腫」が1名、「子宮頚管ポリープ」が1名、「子宮内膜症」が2名であった。
1.調査結果から、女性特有の健康問題に関する認識の重要性と、産婦人科的援助の必要性が示唆された。
2.受診者において、他の産婦人科を受診した者がいなかったことは、一般の産婦人科が対応するに当たって、受診しにくい理由が存在すると考えられた。
3.受診結果から脊髄損傷女性において腟炎のリスクが高いことが推測された。腟炎は、尿路感染症との関連性も指摘されており、腟の自己洗浄など陰部の清潔保持による予防法の確立、それに伴い腟分泌物検査、尿路感染症との関連性についての研究が必要であると考えられた。
4.今後は、脊髄損傷女性における産婦人科的問題(無月経、骨粗鬆症、更年期障害など)について明らかにしていくことが期待される。