二分脊椎者の社会生活技能プロジェクトによる指導事例

更生訓練所 岩谷力・杉原憲明・杉江勝憲・小熊順子・石渡博幸・後藤幸雄・河野智子・加藤禎彦・橋本都
病院 牛山武久・井草良子・多田由美子・金山まゆみ・樋口幸治

1.はじめに

 クライエントは、就業自立を目標に当センターへ入所した。職業訓練は順調であったが、宿舎生活において、入所当初から排泄、衛生管理、居室内の整理整頓ができない等、生活面での技能や習慣に問題があると周囲からの報告があったが、クライエント自身の問題に対する認識が希薄であったため改善に向けたアプローチが遅れてしまった。
 一年間の職業訓練修了を機に、クライエントが単身での自立生活を行なうことを目標に、当センター内で社会生活技能プロジェクト(以下、プロジェクトと略す)を発足させ、訓練を開始した。

2.プロフィール

・氏名 : A (女)
・障害名 : 二分脊椎による両下肢機能障害、膀胱・直腸機能障害
・学歴/職歴 :高校卒(小中高普通校)/ 無
(医学的所見):麻痺レベル:L2
(身体機能)歩行レベル:Hoffer のNonfunctional Ambulator、車いす移乗は自立。
 排尿様式:自己導尿、尿失禁(+)排便洋式:失禁状態
 体幹下肢運動年齢:10ヶ月
 SM社会生活成熟度:71

3.訓練目標

(1)目標:単身での自立生活を営むための社会生活技能の習得
(2)訓練期間:4ヶ月
(3)部門別訓練内容
 @ 生活訓練部門:身辺管理(整容・入浴指導)家事管理(洗濯・清掃・調理・寝具の管理)
 A 医学部門
  a.泌尿器科:排便排尿指導
  b.整形外科:補装具・車椅子・便座作成
  c.P T :上肢筋力向上と車椅子移乗訓練
  d.体 育 :体力向上
 B 職能部門 :職業人としての態度(挨拶・連絡・報告・メモ取り)職業技能(PC訓練)
 C 心理部門 :心理検査および面接
 D 社会部門 :情報提供(住宅改造・自助具・施設)、生活指導、家族支援、進路相談

4.訓練結果

 4か月の包括的訓練の結果、社会生活能力は向上(SM社会生活能力検査で社会生活指数83)、整容、入浴がひとりで出来るようになり、家事管理は見守りのもとに、洗濯、掃除、寝具の管理、調理ができるようになった。
 尿・便臭の軽減の目的で排尿・排便管理の自立を重点的課題とした。洋式トイレでの座位バランスの安定のために特殊便座を作成、週2回の摘便の習慣化をはかった。排尿様式は、日中は留置、夜間は自己導尿とし、失禁回数は減少した。洋式トイレでのパンツ型オムツ交換、失禁時の処理も可能となり、訓練前には気にしていなかった衣服、寝具の便臭・尿臭に気をつけるようになり頻繁に洗濯を行い、消臭剤を利用するようになった。
 体力、筋力、持久力、車いす操作技能などは訓練前後で顕著な変化が見られなかった。
心理的には、訓練前後とも、不安傾向が強く(MAS:28)、行動は積極性に乏しく、失敗に対する不安が非常に強く(セルフエフィカシー)、自分は自分ではどうにもならない、運や偶然に支配されているという諦め感情が見られた(Locus of Control)。

5.退所後経過

 4か月後、地域の自立生活支援施設へ入所した。退所1月後、施設では、ヘルパーなど社会資源を活用し、単独生活への情報提供、社会生活技能の定着支援が行なわれていた。3月後には、週2回のヘルパー訪問をうけ、食事、掃除、買い物、寝具管理など自立した生活を送っていた。便臭はなく、尿臭は軽くなっていた。

6.考察

 本例は就労レベルの知能、学力はあるが、自立生活技能が欠けていた。プロジェクトでは、単身での自立生活を目標とし4ヶ月の包括的訓練を実施してきた。結果、排便・排尿管理は改善し、尿便臭は軽減し、調理、洗濯、身辺整理などの技能もある程度習得したが、習慣化には至らなかった。その原因として、経験不足、生活技能習得を考慮しなかった生育環境が考えられた。 今後、多くの事例を検証し、二分脊椎者の社会生活技能習得に向けての支援技術の確立に向けて取り組みたい。




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