脊髄損傷者の体力標準値(推定値)の検討

第一機能回復訓練部 北村昭子・藤本茂記・梅崎多美

【目的】

 運動療法(リハ体育)部門では簡便で訓練時間内に測定可能なフィールドテスト方法を用い、そのパフォーマンスから体力レベルを推定している。今回、病院入院患者であった脊髄損傷(外傷・疾病)者の過去11年8カ月間のデータを処理し、平均的な日本人の体格、体力、健康を代表する数値として考えることのできる「日本人の体力標準値」と同様に、脊髄損傷者の日常生活自立に必要な体力レベルの目標値を提示することを目的として、車椅子常用脊髄損傷者の体力標準値(推定値)の検討を行った。

【方法】

 平成3年4月〜平成14年11月末日までに退院した脊髄損傷(外傷・疾病)者、男性373名で、平均年齢30.2±13.1才であった。発傷から退院時評価日までの経過期間は18.4±31.4ヶ月であった。分析対象項目は、@筋力として握力と肩腕力、A瞬発力として10mと20m直線ダッシュ、B全身持久力として3分間走、C敏捷性としてリピートターンの6項目で、日常生活に使用している車椅子で測定した。データ分析の対象残存機能はFrankelによる神経症状の分類A〜Dまでとし、精神疾患、腕神経叢麻痺の合併や上肢機能に顕著な左右差がある者、自立歩行可能な者、中心性頸髄損傷者などは分析対象から除外した。

【結果】

 紙面の関係上、10m走と3分間走の結果のみを記述する。10m走は、C5では12.46±4.5秒、C6は7.2±1.3秒、C7〜Th1は5.4±1.0秒、Th2〜7は4.7±0.9秒、Th8〜12は4.3±0.7秒、L1〜は4.2±0.9秒であった。3分間走は、C5では121.0±39.8m、C6は208.0±40.4m、C7〜Th1は280.6±41.8m、Th2〜7は326.2±57.3m、Th8〜12は359.5±49.3m、L1〜は376.3±62.2mであった。また、10m走および3分間走と機能レベルとの関係をみると、これら2変数と機能レベルとの間に有意な相関関係が認められた。一方、2変数と年齢との間には、有意な相関関係が認められないものの、機能レベルごとに、2変数と年齢との関係をみたところ、C7〜Th1、Th2〜12、L1〜では有意な相関関係がみられた。

【まとめ】

 入院患者における、退院に向けての体力指標(目標値)の数値データを得ることができた。車椅子を常用する脊髄損傷者の体力は、機能レベルと年齢の影響を受けることが分かった。すなわち、機能レベルが高い者ほど体力は低く、また、年齢が高い者ほど体力は低くなるという結果であった。今後、車椅子を常用する脊髄損傷者における体力の5段階評価作成に向けて、年齢区分と障害レベルを考慮したうえで、データ処理を行わなければならないことが示唆された。




前頁へ戻る 目次へ戻る 次頁を読む