カタトニー様状態をもつ成人期自閉症者への作業支援

国立秩父学園 松田啓生・齋藤信哉・高畠妙子・入江ゆみ子・吉野邦夫

〔要約〕

 成人期自閉症者にとって作業活動への参加は、働く楽しみや社会性の獲得、仕事とレ ジャーのつながりの理解などに有意義である。しかし重度自閉症者には作業活動への参加が困難 な事例があり、とくに不適応行動や病理的行動を伴うと困難になりやすい。自閉症児者に見られ る病理的行動の一つである「カタトニー様状態」とは、活動や行為の途中で一時的に停止固定す る緊張病様状態をいい、いくつかの病態が考えられている。本事例のYさんは本園入所者でカタ トニー様状態が頻回に見られ、その状態を解除しようと援助者が介入すると他害行為に及ぶこと から、既存の作業グループへの作業参加が困難であった。そこで、構造化された作業支援やコミ ュニケーション学習を行なったところ、移動中や課題中のカタトニー様状態が軽減された。また、 定期的・自立的な作業活動への参加が出来るようになり、社会的適応行動が増えるなどの行動変 容も見られたので、考察を加えて報告する。
〈対象者プロフィール〉 Yさん 32歳 男性 自閉症・てんかん・痛風。
SA(社会生活能力年齢)=3才2ケ月(身辺自立…4:8、作業能力…3:3、意思伝達…2:5)。
PEP−R合格ライン=1才11ケ月。カタトニー様状態は最大で30分〜最小で10秒程度持続。
支援開始当初の生起回数は1日1〜3回。移動中や課題中、休憩場面などの状況で生起した。
〈カタトニー様状態の生起要因仮説〉
生起状況から次の3つが考えられる。
1.行動する目的の意味がわからないなど(実行機能の問題)
2.要求の仕方がわからない、選択が出来ないなど(コミュニケーションの問題)
3.苦手な音、イメージの違いなど(知覚・認知の問題)。
〈支援場面〉
 平日の午前・午後、各1時間半の作業場面。内容は簡単な分類・組み立て課題。手工芸グループの 下請け作業。作業中1人の職員が援助。
〈方略〉
1.構造化された支援(作業環境の整備、作業スケジュールの理解、作業のルーティン化、課題の個別化)
2.援助者の支援方法の統一(叱責しない、言語指示でなく視覚化して伝える)
3.動機付けの工夫(コーヒーの時間、1週間ごとの出勤簿の利用、売店の利用)
4.コミュニケーション学習(コーヒーのおかわり要求、お菓子の選択、作業の終了報告、トイレ承諾)〈支援の経緯〉H12年4月〜2年間

〔結果〕

以上のような支援の結果、次のような変容が見られた。
 i,カタトニー様状態が軽減した
A,作業参加が定期的・自立的になった
B,社会的な適応行動が増えた(援助介入への適応反応、適切な挨拶、楽しみへの期待)

〔考察〕

Yさんのカタトニー様状態の軽減につながった支援方法は次のように考えられる。
@ T→U期で「屋外の移動中」の生起率が軽減したのは、スケジュールの提示・援助者の支援方法 の統一・動機付けの工夫が有効だったと考える。
AU→V期で「屋内の移動」の生起率とV→W 期で「課題中」の生起率が軽減したのは、作業環境の再々整備・課題の個別化が有効だったと考 える。自閉症者のカタトニー様症状は、メジャー・トランキライザーの副作用による始動障害や 前頭葉によって司られる実行企画障害、あるいは環境や状況から意識が離れたファンタジーや再 現遊び、などの病態が考えられている。この症例では、カタトニー様状態を生起する自閉症者の 作業行動形成に、「構造化された支援」が有効だと実践的に示唆された。




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