脊髄障害女性の産婦人科受診に関する調査報告

看護部外来 道木恭子、多田由美子、西川民子
病院泌尿器科 牛山武久、永松秀樹
防衛医科大学校病院産婦人科 古谷健一

【目的】

 男性脊髄障害者の性機能障害に関しては、その重要性が認識され検査および治療の 進歩が伺えるが、女性に関しては、関心がもたれることが少なかった。
 実際、脊髄に障害をもつ女性たちが産婦人科を受診する機会が少ないことから、女性の 性と生殖に関する特有の健康問題については十分な理解が得られているとはいいがたい 現状にある。今回、このような状況をふまえ、国立身体障害者リハビリテーションセンター 病院(以下国リハ)産婦人科を受診した女性を対象として、受診状況に関する調査を実施 したので報告する。
 また、脊髄障害者において、腟分泌物の増加している女性が多いことから、腟洗浄法に ついても検討した。

【対象と方法】

 1992年1月から2003年9月までに、国リハ産婦人科を受診した脊髄障害者80名を対象 として医療情報の記録をもとに調査を行った。そのうち、腟分泌物が多い女性5名に対して 腟洗浄を実施し、本人の自覚症状および腟分泌物と尿の細菌検査などから経過を観察した。

【結果】

 診断結果については、「腟感染症」が58名(73%)と最も多かった。他に、「子宮 筋腫」9名、「卵巣嚢腫」3名、「子宮内膜症」1名、「ポリープ」4名「排卵障害」11名、 「妊娠」7名であった。「腟感染症」では、腟分泌物の細菌検査の結果から、カンジダ腟炎 と診断された者が19名、MRSAは1名であった。その他の細菌としては大腸菌、レンサ 球菌、B郡レンサ球菌、ブドウ球菌、腸球菌などが検出された。これらの細菌は、2〜4回 の腟洗浄によって減少し、それとともに、腟分泌物の減少傾向が認められ、腟洗浄後、 健康な腟内状態の指標となるLactobacillusが検出される者もいた。

【考察】

 脊髄障害女性は腟感染症のリスクが高いことが示唆されたが、腟分泌物の増加は放置 されてしまう傾向が当時者のみではなく医療者にみられることが問題である。今回、腟 感染症に対して、腟洗浄法が有効であることが示されたが、発症してからの治療だけでなく、 予防法を確立していくことが必要である。
 また、この予防という概念を拡大し、早期治療が必要な疾患全般に対しても予防の概念や、 それにともなう定期的な健康診断が必要と考える。

【まとめ】

 脊髄障害女性にとって、産婦人科領域の問題は、女性としての健康に関わる重要な 問題であることを、医療者が理解するとともに、脊髄障害者に対する知識の普及が必要である。




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