病院 第一機能回復訓練部 | 千見寺芳英 |
診療部 | 大熊雄祐 |
研究所 補装具製作部 | 三田友記 |
足底からの感覚情報は歩行の安定に大きく寄与するといわれている。一方で、切断者 に対する従来の理学療法は筋力増強訓練や動作訓練等が主で、義足や断端部からの感覚 フィードバックに着目した訓練は行われていなかった。本症例は両側の下腿切断者のため 足部からの感覚情報が得にくく、歩行自立に時間がかかることが予想されたため、感覚向上 アプローチを試みたので以下に報告する。
37歳、男性。両下腿切断(凍傷による両下腿壊疽)。断端長 右18cm、左22cm。
断端部の皮膚状態は良好で、しびれ・幻肢痛等の訴えは認められなかった。
2003年2月25日凍傷にて救急病院に搬送。2月27日両足部壊疽にて両下腿切断。
3月3日、10日に断端形成術施行。6月3日当院入院。
義足足部を介した感覚入力の識別能力を高めることで、安定した義足歩行の獲得、
不整地への対応が可能になると考え、筋力増強訓練や動作訓練等に加え、以下の2つの
アプローチを行った。
1.スポンジの硬さを識別する課題
5種類の硬さのスポンジを用意し、義足足部で踏むことによってその硬さの違いを識別する
課題を行った。はじめは2種類の硬さでの識別課題を行い徐々に種類を増やす方法をとった。
これは義足足部を介した感覚識別の細分化を図り、より多くの路面状況の把握を目的として
行った。
2. 柔らかいマット上での歩行練習
不安定な路面上を歩行することで、路面から義足を介して入力される感覚情報を増やし、
入力された感覚に対する運動出力のフィードバックの向上を目的として行った。
また、定期的に重心動揺距離、10m歩行速度、3分間歩行距離を測定し、その変化を
記録した。
感覚アプローチを行った結果、義足による識別能力の向上がみられた。また、動作・ 歩行能力の向上もみられたが、義足を介した識別感覚の向上との因果関係は確かでは なかった。本症例は両側切断のために、路面など外界の状況を常に義足を介して把握 しなければならない。そこで、より多くの感覚入力を把握・識別するために感覚識別の 細分化が必要と考えられる。今後は症例数を重ね、効果の検証をしていくことが課題に なると考える。