立位歩行様運動が頸髄損傷者の呼吸循環動態に及ぼす影響

国立身体障害者リハビリテーションセンター病院 樋口幸治、北村昭子
国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所 中澤公孝、河島則天
浜松医科大学リハビリテーション部 伊藤倫之
偕行会 名古屋共立病院 坂野太亮

目的:

 頸髄損傷による四肢麻痺者は、障害や長期臥床による有酸素性作業能力などが低下し、 二次的障害の発生や生活習慣病の危険因子となることが考えられる。それらの予防や改善 に歩行運動が見直され始めているが、頸髄損傷者の立位運動時の身体反応は不明な点が多い。 そこで本研究では、頸髄損傷者の立位歩行様運動中の呼吸循環応答について車椅子運動中の 呼吸循環応答と比較検討することを目的とした。

方法:

 被検者は、外傷性頸髄損傷による完全四肢麻痺男性で、1)立位歩行様運動機器 (EasyStand Glider 6000:Altimate medical社)を用いた立位運動群(5名、年齢27.00±5.52歳、 身長166.00±5.24cm、体重52.62±6.65kg、障害レベルC6:4名、C7:1名、以下ES群)および 先行研究で行った2)車椅子ローラー(イシヌキ社製)を用いた車椅子運動群(8名、 年齢26.88±6.06歳、身長170.13±6.77cm、体重53.65±6.13kg、障害レベル:C6、以下W/C群) である。漸増負荷試験は、ES群で、座位安静5分後、腕の交互運動+下肢の他動運動を1分間に 20回から20回ずつ増加させ、40回からは10回ずつ増加させ疲労困憊状態まで行う漸増負荷法 で行い、W/C群は、座位安静5分後、2km/hから1km/hずつ増加させ疲労困憊状態に至らせた。 それぞれの運動負荷試験において酸素摂取量(Vo2)、換気量(VE)、心拍数(HR)、血中 乳酸値(LA)を測定した。

結果:

 最大運動時のVo2/wtは、ES群が14.90±5.92ml/kg/min、W/C群が9.83±2.90ml/kg/minで ES群が高い傾向を示した(P=0.061)。HRは、ES群が122.30±12.01b/min、W/C群が107.63± 9.68b/minでES群が有意に高値を示した(P<0.05)。VEは、ES群24.73±7.18l/min、W/C群が 41.16±11.12l/minでW/C群が有意に高値を示した(P<0.05)。LAは、ES群が2.90±1.23mmol/l、 W/C群が3.98±2.24mmol/lで両群に差は認められなかった。

考察:

 頸髄損傷者では、交感神経系の障害による心拍数の上昇制限や可動筋量の減少により 有酸素性作業能力が低下する。しかし今回新たに検証した立位歩行様運動では、上肢運動に 同調した麻痺域にも他動運動がなされるため、筋ポンプ作用が働き、静脈還流量さらには 1回拍出量が上肢のみの車椅子運動よりも増加し、その結果、最大運動時のVo2/wt増加に つながったと考えられる。本研究は、第58回日本体力医学会にて発表・検討した。




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