研究所 補装具製作部 | 山崎伸也、中村隆 |
病院 診療部 | 岡田真明 |
病院 第一機能回復訓練部 | 野月夕香理 |
日本において上肢切断者に処方される義手は、装飾用義手、能動用義手、作業用義手、
筋電義手があるが、そのうち筋電義手の割合は全体の約1%にすぎない。一方、欧米諸国
では、筋電義手が70%を占める国もあり、日本は筋電義手の普及が遅れていると言わざる
をえない。その理由として、義手自体の機能以前に、給付制度の問題、障害者と医療従事者
に対し十分な情報が与えられていない等の問題が指摘されている。本来処方される義手は
切断者の生活とそれに求められる機能により決定されるものが望ましいと考え、今回、能動
義手の訓練に並行して筋電義手の試用評価を行い、生活に適した義手の選択のためにそれぞれ
の特徴を整理し、より使いやすくするための改善点を抽出していくこととした。
症例は前腕切断者で、3ヶ月間義手訓練のため当院に入院した。能動義手(手先具:
能動フック)と筋電義手(手先具:電動ハンド)の操作訓練を同時に行い、日常生活における
2つの義手の差異について理解を深めてもらった。さらに筋電義手については、手先具の
電動フックへの交換や手関節掌・背屈機能の導入等を試み、次のような知見を得ることが
できた。
[能動義手と筋電義手の特徴]
・重量 :筋電義手は能動義手より重い
・操作範囲:能動義手 手を伸ばした状態、体の後ろや頭上では手先具の開閉が不可能と
いった操作時の姿勢に制約がある。
筋電義手 姿勢の制約はない。
・把持力 :筋電義手は能動義手より把持力が大きくしっかりとした固定が可能。
・着脱 :筋電義手はハーネスがないため服に影響されない。
[手先具のフックとハンドの利点と欠点]
フックは機能的な指のみの形状のため、操作性が良いものの外観が悪い。一方、ハンドは
外観が良いものの機能に関与しない指が操作性を阻害する。
そこで、ハンドに適当な
デバイスを取り付けたところ、欠点であった操作性が改善され、本人の筋電義手に対する
期待が高まった。
使用者からの意見を元に義手の特徴についてまとめた。筋電義手では、一度使用者が 限界を感じた作業でもさらなる情報の提示、義手の改良により、一段上の義手に対する希望を 引きだすことができた。筋電義手の試用評価の実施は、義手選択の一助になると共に、 筋電義手の使い勝手、さらには使用者の生活意欲の向上にも役立つと考えられる。