歩行中の断端形状変化に対応する下腿義足ソケットの製作事例

研究所 補装具製作部 三田友記、佐々木一彦
病院 第一機能回復訓練部 千見寺(ちけんじ)芳英
病院 診療部 大熊雄祐

1.概要

 切断後4ヶ月以上を経た両側下腿切断者において、義足装着訓練開始後、断端周径の 肥大により、ソケット装着が困難になった事例を経験した。周径の変化に合わせたソケット の再製作を行うも、圧迫感・痺れ等の訴えは改善されなかった。また、症例は筋収縮による 切断端の形状変化が顕著に認められるため、歩行中の筋活動による断端形状の変化が推測 された。そこで、これらの愁訴を軽減することを目的として、歩行中の断端形状変化に対応 するソケットを製作し、義足適合の改善を図った。

2.先行事例

 歩行時の断端筋肉の動きにつれて形状が変化するソケットは、吸着式大腿義足における ISNY(Icelandic-Swedish-New York)ソケットが1972年に開発されている。このソケットは 内ソケットと体重支持を行う外フレームの2重構造からなり、筋の動きを許容することによる 快適性、軽量、熱放散、ソケットを通じて外側の感覚を得やすい等の利点を持つ。下腿義足 への応用としては、大腿義足と同様に2重ソケットによる製作手法が紹介されているが、 断端形状変化への対応というよりも、非荷重部分の除圧を主な目的としている。

3.方法

 ISNYソケットの製作方法に準拠し、仮合わせ用チェックソケットに使用した石膏モデル を基に2重ソケットを製作した。体重支持部となる外ソケットにはカーボンファイバーを積層し、 十分な強度を得られる構造とした。断端を収納する内ソケットには9mm厚EVA(Ethylene Vinyl Acetate)素材を薄く成型し、断端の筋運動を許容するやわらかさを得られるよう 製作した。内ソケットのみを装着し、筋収縮に伴う形状変化が最も大きい部位をあらかじめ マーキングしておき、これに該当する部分の外ソケットをくりぬき、筋の膨隆を許容する構造 とした。

4.結果・考察

 体重支持を行いながらも、筋の膨隆を許容するソケットを装着することによって、 「硬い容器に足が閉じ込められているような」違和感が消失し、歩行中の圧迫感や痺れ等の 愁訴が軽減された。
 従来、「断端の成熟」には断端部の残存筋が、断端包帯の着用や義足装着によって萎縮 することで、容積が変化しにくい安定した状態になることが求められてきた。一方で、 筋萎縮を可及的に防ぎ切断前と同様な筋緊張を与え、より生理的な状態に保とうとする 断端形成術が行われている。症例の形成術について詳細は不明であり、また、形状変化を ソケット内で許容することと、周径肥大の関係を言及するには至らない。しかし、筋収縮 による筋腹の膨隆等、生理的な状態が残存する切断端には、生理的な状態を許容する ソケットを検討・製作が必要であると考える。




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