発声発語器官(声道)の三次元模型作成

第二機能回復訓練部 白坂康俊
耳鼻科 熊田政信
放射線科 肥沼武司
東京都リハビリテーション病院 池上奈津子

はじめに

 コンピュータ上で作成した3次元画像を、立体模型に作成する「積層造形」と 呼ばれる方法を応用し、実在の立体を3次元計して、全く同じ形状の立体模型を作成する ことが可能である。しかも、これまでの立体模型作成方法では困難であった立体内部の 空間の再現が可能で、複数の空間を含む複雑な図形が作成できるといったメリットがある。 ところで、発声発語器官は「声道」とも呼ばれ、基本的に、人体内部の空洞からなっている。 この声道をCTスキャンにより3次元計測し、積層造形技術を応用することによって、 「声道」の、正確な実物大立体模型の作成に成功したので報告する。

方法

 健常成人2名の/a/「あ」および/i/「い」発声時の、喉頭下部から鼻腔上部までを CTスキャンにより撮影し、データをコンピュータに入力後、積層造形で処理可能な スライスデータ形式(STLデータ)に変換し、数種類の積層造形技術を用いて、複数の 声道模型を作成し、形状、大きさの再現性などを検討した。

結果

 声道模型作成過程において明らかになった問題点に対し、以下のように対応した。 1. 造形装置のデータ処理能力や造形能力に差があり、装置によっては再現精度が低かった。 2. 第一の被験者のCT画像では、歯の治療用金属のアーチファクトが画像の乱れを生じさせた。 データ上の処理では除去できず、歯の治療経験のない者を第二の被験者とすることで対応した。 3. CT画像データから積層造形対応のSTLデータへの直接変換が困難であった。 一旦別の方式の三次元画像データに変換し、さらにSTLデータに書き換えるといった二段階の 変換を行なうことで解決した。4. データ変換の際には、人体の組織部分と、声道の空間部分 との境界の設定(CT画像での輝度の設定)に配慮が必要であった。5. 積層造形素材によっても、 再現性に差が認められ、試行した方法のうち「光硬化樹脂」による方法が、最も精度が高く、 被験者と立体模型の実測による比較では、1oの範囲内の精度で再現されていた。  これにより、正常な発声発語および、構音や発声の異常発生のメカニズムを検討する 音響実験が可能になった。また、医学教育用教材の作成や、人体の他の空洞部分の立体模型 作成など、広範囲な応用の可能性が考えられた。

まとめ

 人体内部の空洞である声道をCTスキャンにより撮影し、そのデータから積層造形技術を 用いて、精度の高い声道の立体模型を作成することができた。




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