ソーシャルワークアセスメントの役割と方法
−倫理的ジレンマ解決を目指して−

医療相談開発部 小山聡子、菅原美杉、佐久間肇

1.はじめに

 医療ソーシャルワーカーとして、医師と患者の間に立ったときに感じる「ズレ」の 一因には、それらを埋める機能を持つはずのソーシャルワークアセスメントが十分に機能 していないという点があると考えられる。本発表では、ソーシャルワークアセスメントの 近年の動向を踏まえた上で、ミルナーとオバーンによる「解決指向型アプローチ」及び 川村の「倫理的ジレンマ解消ステップ」に基づく事例を提示し、病院内多職種間のより 良き協働をめざす。

2.「ズレ」の例とその由来

 例えば、患者個人にとって医学的に望ましい方針が、家族等の生活上の諸事情に よって貫けない場合、医療職サイドには、本人(家族)の社会的状況をすべて把握して 方針を語るまでの責務はないため、一見、本人や家族が説教されるような状況が立ち 現れることがある。一方、本人が帰って行く先の生活には、当然その人ごとの歴史や 価値観、好み、そして家族の事情や活用可能な資源の総量にもとづく十人十色の方針が ありうる。これが「ズレ」の一形態である。

3.アセスメントの動向

 ソーシャルワークにおけるアセスメントはメアリーリッチモンドが診断の必要性を 主張したところに遡る。そこでは、精神分析理論に基づいて個人のパーソナリティーに 着目する認識が濃厚であった。近年そうした医学モデルに基づく診断概念では無理が あることに気づき始めたソーシャルワーク実践はシステム論の発想や生態学的視座を 持つようになり、生活モデルに基づく援助プロセスを打ち出すようになった。 社会構築主義の影響も見られる。その中で診断に変わるものとして位置づけられたのが アセスメントである。一方、その概念に関してなかなか統一された見解がなく、共通の 枠組みが確立していないのも事実である。ここでは、「人・問題・状況」の把握をし、 援助活動への情報を提供する連続した過程ととらえる。

4.事例を通じて

 サービス利用者を病理化することを避け、人から「問題」を切り離す「解決志向型 アプローチ」の姿勢に基づき、患者の方針決定プロセスにおける倫理的ジレンマ解決の ステップを一覧表に示した(資料参照、事例に取り上げることは本人了解済み)。 患者の自己決定を尊重しつつも、取り巻く人々の持つ各種の倫理を淡々と表記し、 最大公約数をとるための一方法である。

5.おわりに

 病院や施設では、一定の生活様式を強要しながらのアセスメントになるので、 どうしても「場」の性質に基づいた援助者側の都合による「困った利用者」枠組みが 生み出されやすい。こうした枠組みは一旦そのように形成されると、我々と利用者間の 相互作用を通じて増幅し、悪循環をすることになりかねない。それぞれの立場がどの ような価値と倫理に基づいて判断をしているかを冷静に整理するアセスメントが重要である。 また、ソーシャルワーカーは中長期的にはジレンマ解消に向けた資源の創出や制度の 改変に向けた仕事を忘れてはならないといえる。




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