投動作における上肢関節の3次元的運動調節

研究所 運動機能系障害研究部 井田博史、赤居正美、中澤公孝、野崎大地

【はじめに】

 上肢の基礎的運動機能を調べるため、リーチング動作,目標物追従動作,投動作など が先行研究の課題動作として採用されてきた.この中で,投動作についても多数の報告が なされているが,上肢関節そのものの3次元的動態を詳細に検討した研究は少ない. 本研究では,上肢各関節の解剖学的回転運動に則って,ターゲット投げ課題における動作を 詳細に検討する.

【方法】

 右利き成人健常男子2名について,座位における肩関節以遠位部による投動作を モーションキャプチャーシステムVICON 370(Oxford Metrics, Oxford)により座標 データを取得した.試技は,テニスボールの投球を (1)低正確度課題:最大努力間で 行う, (2)中正確度課題:3 m前方に設置したターゲットホール(直径20 cm)を通過 するように行う, (3)高正確度課題:2と同様にターゲットホール(直径10 cm)を 通過するように行う, の3課題とした.

【結果】

 すべての課題で2名の被検者において共通に観察された関節運動は,肩関節の一貫 した水平屈曲運動,肩関節の外旋とそれにつづく内旋運動,リリースに向けて急激に増大 する肘関節の伸展運動,リリース直前の手関節の掌屈運動であった.このうち,肩関節の 外旋運動においてのみ課題間で2名の被検者共通の変化を示し,低正確度課題において 高い肩関節外旋角速度(8.9, 9.8 rad/s)が,中正確度課題(5.3, 4.1 rad/s),高正 確度課題(3.7, 3.6 rad/s)の順でそのピークの絶対値が小さくなった.また,1名の 被検者の中および高正確度課題において,リリース直前で絶対座標系鉛直面内での 手関節運動が観察された.

【考察】

 今回の2名の被検者においては,肘関節、前腕部および手関節の解剖学的関節運動 について,課題間で特徴的な変化傾向は観察されなかった.課題正確度と顕著な関係の あった肩関節の外旋運動は、前腕部および手部を後方に移動させる運動であり,投球の 正確度をあげるためにいわゆる腕のコッキングを小さく制限する方略のみが採用されて いる可能性が高い.1名の被検者でみられた鉛直面内のみでの手関節運動は,ターゲット への正確度をあげるために妥当であると考えられるが,もう1名の被検者ではこの方略 はみられなかった.




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