職能訓練場面での高次脳機能障害者への対応例
──機械彫刻作業において──
1.はじめに
近年、高次脳機能障害を有する職能訓練利用者が増えてきた。特に記憶障害・
注意障害・自己の能力を受容できない等の課題を有する者への対応は大変苦慮している。
中には、訓練の実施も困難な程度の時もある。今回は機械彫刻作業に絞り、日々の職能
訓練場面での対応を報告する。
2.機械彫刻作業の概要
次の4つの作業がある。
- 前準備(材料の切断・成形・接着等)
- パソコン作業(パソコンの立ち上げ・終了。専用ソフトを利用してパソコンに
データの入力等。課題内容は定型物・不定形物がある)
- 彫刻機作業(材料貼り・カッターの取り付け・データ記憶用機器の準備・構成刃先
の監視等)
- 関連作業(主に出力後の仕上げ作業である。端面仕上げ・塗料入れ・塗料ふき・
クリップ付け・ビニール袋作り・ビニール袋入れ・ポリシーラー作業等)
3.訓練状況と対応例
医師の診断及び各種の心理検査で高次脳機能障害を有すると診断された5名について、
状況・対応・結果を報告する。なお、詳細については紙面の制約上割愛する。
4.まとめ
- 一人一人記憶障害の影響が異なる。
- 本人の作業や仕事に対する取り組み姿勢や意欲・興味により記憶障害の影響は異なる。
また、代償手段の利用意欲も関係してくる。
- 作業手順が覚えられない場合、メモ書きを利用することで作業がスムーズに出来る者
もいる。慣れればメモなしで作業が出来るようになる事もある。また、メモ書きは本人なり
の記載でないと有効とならないこともある。
- 本人が「やりたい」と思っている直接的な作業を体験しないと、特に出来ないことへ
の自己受容がすすみにくい。
- 「こんな些細な質問」と思われる内容や過剰な確認であっても、聞かれた側が適切に
冷静に対応することで本人は安心感を得られて、その後は落ち着いて作業に取り組める。
- 場面に応じた簡単な声掛けは、本人が悩んでいることの解決のきっかけになったり、
精神的な余裕を保つための有効な一手段と考える。
- 本人の状況(精神的な余裕・体調・集中力・作業への関心や慣れ等)を考慮した
作業内容の組み合わせや時間配分が必要である。
- 機械彫刻作業の全作業を総合的にやれることが一般就労への一つの目安と考える。
- 様々な場面で習得した対策が自分の力で活用できるようになっているか否かが一般
就労への一つの目安と考える。