リハ訓練終了後も記憶の外的補償手段が活用されるために

医療相談開発部 田中大介、四ノ宮美恵子、土屋和子、尾崎聡子、乗越奈保子、色井香織、鴫野麻里子、秋元由美子、佐久間肇

1.目的

 当病院心理では、記憶障害を有する患者に対して、記憶の外的補償手段としての 「メモリーノート」の活用に関する指導を行ってきた。この指導の最終的な目標は 「訓練終了後も、自らの記憶障害に対する補償手段として活用できるようになること」 である。指導に際しては、患者の記憶障害の程度や様相、あるいは生活習慣等に合わせ、 メモを取るべき内容や項目を柔軟に変化させているが、訓練終了後にも生かされている ケースもあれば、生かされていないケースもある。そこで、患者のどんな側面がその 定着に影響しているかを今まで指導した患者のデータを元に検討した。

2.方法

 分析に用いたデータは、1999年度以降に入院あるいは外来通院し、心理で 「メモリーノート」指導を行った34名のデータであった。基準変数は、「入院、あるいは 外来での訓練終了後に『メモリーノート』やそれに準じた記憶補償手段を用いているか どうか」を心理職員が本人、家族等に聴取した上での判定結果とした。説明変数を性別 要因(患者の性別)、年齢要因(受傷時の年齢)、IQ要因(初回のWAIS-R)、FFGW要因 (心理で行っているグループ指導への参加の有無)、家族要因(「メモリーノート」に ついて家族へも指導を行ったかどうか)、障害認識要因(患者の障害認識の程度)の 6要因として、ロジスティック回帰分析を行った。

3.結果

 分析の結果、家族要因と障害認識要因の2要因に5%水準で有意な差が得られた。 すなわち、家族に対しても「メモリーノート」の活用指導を行った場合の方が、訓練終了 後も記憶補償手段として活用できることが示された。また、入院や外来当初の障害認識が 高い方が訓練終了後も活用できることがわかった。

4.考察

 「メモリーノート」活用を定着させるための家族指導の有効性が、統計的に明らか になった。記憶障害は、リハビリを通じても抜本的な改善が得られにくいとされ、障害 克服には補償手段を継続して活用していく必要がある。そのためには、長期的に患者を サポートする存在である家族の支援が重要であるといえる。今回得られた結果は、指導の 導入にあたっては障害認識を高めることが重要であり、同時に、「メモリーノート」の 意義を家族に対しても指導することが大切であることを再確認させる結果であった。




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