高次脳機能障害を有する患者に対するグループ指導プログラムの開発と実践

医療相談開発部 色井香織、四ノ宮美恵子、土屋和子、尾崎聡子、乗越奈保子、田中大介、鴫野麻里子、秋元由美子、佐久間肇

1. はじめに

 高次脳機能障害を有する患者は、自己の感情に気づいて適切に表出したり、他者の 感情を読みとることが困難であると言われている。当院心理部門では、患者の社会参加に 向けての支援方略として、感情面に焦点を当てると同時に認知的側面からもアプローチする グループ指導プログラムであるFFGW(Feeling-Focused Group Work)を開発し、2001年 10月より実施している。ここでは、FFGWの紹介とその効果について検討する。

2. プログラムの目的

  1. 自己の感情の表出と気づき
  2. 他者の感情の読みとりと共感
  3. 対人関係能力の向上
  4. 障害認識の向上
  5. 復学・復職への動機づけ
  6. 記憶の補償手段の獲得
  7. 注意機能の改善

3.プログラムの手続き

 1回90分、週1回または2回実施。2〜4名程度の患者メンバーと2名の職員から構成。

4.プログラムの効果の検討結果

 参加者22名について、「感情の表出と気づき」、「感情の読みとりと共感」、 「記憶の補償手段の獲得」の3つの目的と「障害受容」に関する評定を行い、FFGWへの 参加前後の比較検討を行った。評定は心理の職員が行った。患者要因とFFGWの参加が 初回か最終回かという時期の要因を独立変数(説明変数)として、効果に関する ロジスティック回帰分析を行った結果、時期の要因が「感情の表出」、「感情の 読みとり」、「障害受容」の変化を説明する要因として1%水準で有意な寄与が 認められた。また、「メモ率」に関しては、t検定の結果、初回と最終回のメモ率に 1%水準で有意差がみられ、改善が認められた。

5.まとめと今後の課題

 分析結果より、FFGWへの参加を重ねることによって、自分の感情を表出し、 相手の感情を読みとることに効果のあることが明らかとなった。また、メモ率に改善が 認められたことから、記憶の補償手段の獲得に向けても有効な指導方略であり、同時に 注意障害(特に、注意の配分)の改善にも寄与したと考えられる。さらに、自分の感情 に対する気づきや他者との感情交流を通して、自己の障害を受け止め、社会参加へ 向けての行動化を促していくことに有効な方略であることが示唆された。今後、今回 取り上げることができなかったプログラムの目的に即して、引き続き効果を検証しながら、 より有効なプログラムとなるよう検討を行っていきたい。




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