カナ呈示による点字利用が困難な盲ろう者向けパソコン利用支援機器

研究所 福祉機器開発部 伊藤和幸

1.はじめに

 点字の習得が困難な盲ろう者(視・聴覚重複障害者、国内で推定2万人)のパソコン 利用を支援する機器を紹介する。視覚障害者向けに提供されているスクリーンリーダーの 点字・音声出力が利用できないため、カナ呈示を情報提示手段とした。

2.支援機器の概要

 支援機器は、点字の替わりに文字そのものの形を触覚ディスプレイに表示し、それらを 触読してパソコンの操作内容を理解する方式を採用している。ディスプレイへの出力には スクリーンリーダー(WinVoice)をカナ呈示用に改良し、触読対象が点字から触覚 ディスプレイ上のカナ文字へ代替されたと考えればよい。触覚ディスプレイは、KGS社製の ピンディスプレイSC-5(1セル8×8ピン、ピン間隔3mmピッチ)を利用し、離散的な点の集合 として1セルで1文字のカナ(約2.5cm四方)を表現する。カナ文字のドット表現は、 盲ろう者の意見を参考に「ツ」と「シ」、「ソ」と「ン」など混同しやすい文字には特徴点を付け 作成した。文字入力は、標準キーボードからの操作と平行して携帯電話入力方式で候補を 示し、確定操作で文字入力を行うキーボード代替機能をカナ呈示機に内蔵している。 つまり、「あ」行に対するキーを2回押すと「イ」が、「た」行に対するキーを5回押すと「ト」 が入力候補として提示され、確定キーを押すとその文字がパソコンに入力される方式である。 WinVoiceの出力をカナ呈示に利用するため、本支援機器は標準のMS-Windows環境で動作し、 操作に対する視覚的な出力情報が全てカナ呈示される。

3.使用評価

 ワープロソフトへ文字を入力する作業により使用評価を行った。被験者にはアイマスク をした健常者6名(A〜F:5回、Dは3回)と盲ろう者1名(G:中途障害、2回)にご協力ただいた。 健常者には清音46文字と空白7文字を、盲ろう者には自由に文章を入力するように指示し、 入力中の確認操作を含めた入力時間を計測した。結果を表1および図1に示す。図からは、 2回目もしくは3回目に入力時間の減少傾向が見られることから、少ない練習回数で操作を 習得できることが伺える。また、日数経過による1文字あたりの入力時間の減少傾向も 見られるため、継続して使用することでさらに操作効率が向上することが予想される。 盲ろう者の使用評価は2回だけであるため、今後継続評価を続ける必要があるが、操作内容を 理解すると健常者と遜色ない入力操作が可能であった。文字入力操作については、健常者・ 盲ろう者ともほとんど誤操作なく操作が可能であった。被験者からは、「リ」や「ル」「ツ」 のように横に離れている文字は1文字なのか複数なのかが判りにくいという意見があるため、 視覚的イメージを基本としつつ触読に適したフォントを検討する必要があろう。




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