東日本大震災直後の平成23年3月に、被災地で発達障害のある人に対応する方々に向けて「被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ」という記事を、3回にわたって掲載しました。

【PDF版】掲示用にご利用ください。

被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ(その1)  (PDF:316KB)
被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ(その2)  (PDF:331KB)
被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ(その3)  (PDF:165KB)

被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ(その1) 

平成23.3.15.

 被災地で、発達障害児・者に対応することが必要な方々(今回は、避難所での支援に携わる方、家庭で一緒に過ごすご家族)に理解しておいていただきたいこと、ご協力いただきたいことをまとめました。

避難所での対応

 発達障害のある子どもやその家族からは、下記にまとめたようなお願いをされることがあります。発達障害のある人は、見た目では障害があるようには見えないことがありますが、みなさんの理解と支援を必要としています。

・発達障害のある人への対応には、コツが必要です。だから、ご家族など本人の状態をよくわかっている人が近くにいる場合は、必ずかかわり方を確認してほしい。

(対応例1)「必要な物品(薬、食品、筆記用具、玩具など)はありますか?」
(対応例2)「特に配慮すること(落ちつける場所、話しかけ方など)はありますか?」

・発達障害のある人は、日常生活の変化が想像以上に苦手な場合が多いので、不安になって奇妙な行動をしたり、働きかけに強い抵抗を示すこともあります。だから、行動してほしいことの具体的な指示、時間を過ごせるものの提供、スケジュールや場所の変更等を具体的に伝えてほしい。

(対応例3)「このシート(場所)に座ってください。」 (×:「そっちへ行っては駄目」)
(対応例4)筆記具と紙、パズル、図鑑、ゲーム等の提供。 (×:何もしないで待たせる)
(対応例5)「○○(予定)はありません。□□をします。」 (×:黙って強引に手を引く)
(対応例6)「○○は□□(場所)にあります。」 (×:「ここにはない」とだけ言う)

・発達障害のある人は、感覚の刺激に想像以上に過敏であったり鈍感である場合が多いので、命にかかわるような指示でも聞きとれなかったり、大勢の人がいる環境にいることが苦痛で避難所の中にいられない、治療が必要なのに平気な顔をしていることもあります。だから、説明の仕方や居場所の配慮、健康状態のチェックには一工夫をしてほしい。

(対応例7)文字や絵、実物を使って目に見える形での説明や、簡潔・穏やかな声での話しかけ。
(対応例8)部屋の角や別室、テントの使用など、個別空間の保証をしてあげる。
(対応例9)怪我などしていないか、本人の言葉だけでなく、身体状況を一通りよく見る。

参考
自閉症の人たちのための防災・支援ハンドブック

自宅での対応

 災害時の生活は普段とは随分異なる状況になります。この間、災害の対応が落ち着いた後の生活を踏まえた対応が必要になります。
 
・学校や職場などの休み、停電、テレビ番組の変更など、当面は見通しが立たないことが多くなります。そのような場合でも、安定した生活リズムで過ごせるように、当面の新しい日課の提案や、時間を過ごせるものを用意する等の工夫が必要です。
 
・被災状況のテレビ報道等を確認することも必要ですが、特に子どもの場合には、他人に起こったことでも自分のことのように感じてしまって、想像以上の恐怖体験となってしまう可能性があることも海外の調査で指摘されています。子どもの目に触れる時間帯には、別のことで時間を過ごせるような工夫をすることも必要です。

被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ(その2)

平成23.3.18.

 発達障害のある人やそのご家族の被災地での生活には、発達障害を知らない人には理解しにくいさまざまな困難があります。そんなとき、発達障害児・者への対応について少しでも理解している人がいると、周囲の人も含めてみんなが助かります。

避難所での対応

発達障害について知識があり、「どんなふうに情報を伝えたらよいのか」「どんなふうに対応したらいいのか」「発達障害について詳しくない人に、どんなふうに説明したらよいのか」アドバイスや判断ができる人が必要です。このような人がいるかどうか、まずは避難所の中で確認しましょう。

  • 地盤のゆるいところなど危険なところに行ってしまったり、病人の医療機器を触ってしまう子どもがいた場合。

(対応例1)ほかに注意や関心が向く興味のある遊びや手伝いに誘う、行ってはいけないところや触ってはいけない物がはっきりとわかるように「×」などの印をあらかじめ付ける、などの工夫を実際に提案してくれる人がいると、大きな騒ぎになりません。

  •  水や食料、毛布などの配給時にずっと待っていられないで、騒いでしまう子どもがいた場合。

(対応例2)家族の代わりに子どもの相手をしたり、発達障害の特性を家族と一緒に周囲の人たちに説明していただくと、家族はたいへん助かります。

自宅での対応

被災後、学校や施設が休みになって、発達障害児・者がずっと出かけられずに家庭にいなければならない場合があります。中には、家族だけでは対応が困難になっていることがあります。このようなときには、子どもへの対応のサポートが必要かどうか、家庭を訪問して確認するなどの必要もあります。基本的にはそれぞれの地域の行政の人がこの役割を担いますが、発達障害者支援の知識をもった人が同行することも、時として役に立ちます。

・余震が続いたり、家族の不安な様子を見て、こだわり行動や不眠が続くという子どもがいた場合や、配給や買い物、役所や銀行などの手続きに行けずに困っている場合。

(対応例3)家族の代わりに発達障害のある子どもの相手をしたり、メンタルヘルスの相談などの利用について情報提供を行って、家族の負担を軽減してあげることができます。

・災害前は自分一人でできていたことも、家族に甘えることが増えて自分でしなくなるということもあります。

(対応例4)子どもが自分一人でやるように励ますのか、一時期のことだから甘えることを良しとするのかといった相談を個々に聞いてあげることで、家族を安心させることができます。

心得ておくべきこと

発達障害のある人の特性は一人ひとり異なります。普段の支援方法と大きく異なると、関わったことがかえって混乱を招くことがあります。本人や家族、本人の様子をよく知る人にできるだけ確認しましょう。

実際に関わって、気になった点や気づいた点については、避難所や訪問の際の担当者に必ず情報を伝え、申し送りをしましょう。一貫したサポートを受けられることで、発達障害のある人やその家族も安心できますし、災害時のような支援が必要でなくなった後の生活の安定にもつながります。

被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ(その3)

平成23.3.28.

発達障害のある人の困っていることへの気づき

 避難所の生活や災害時の特別な状態での家庭生活が長期化するにつれて、徐々に心身ともに疲れやストレスが蓄積してきます。そのこと自体は発達障害のある人もない人も同じですが、周囲から見てわかりにくい発達障害の場合に特に必要となる視点をまとめました。

 発達障害の人やその家族が困っている様子に気づくためには、若干の知識とコツを身につけておくことが必要です。以下の視点や例を参考にして、まずは困っていることに気づいてあげてください。 

健康状態の把握

 発達障害のある人の場合は、体調や怪我について我慢しているのではなく、本人自身が気づいていない場合があります。気づかずにそのまま放置すると、体調や怪我の状態が悪化してしまう場合がありますので、丁寧な観察と聞き取りが必要です。

気づくための観察例
  • 息切れ、咳などが頻繁でないか。
  • やけどや切り傷、打撲などがないか。
  • 着衣が濡れたままでも着替えていないということがないか。
気づくための質問例
  • いつもより寒くないですか? 歩くときにふらふらしませんか?
  • 頭のこぶ、腕や足に怪我がありませんか?
  • 洋服の着替えがありますか?

ストレス状態の確認

 発達障害のない人には平気なことでも、発達障害のある人には日常生活に困難さを感じるくらい苦痛に感じていることがあります。発達障害のない人よりもストレスの蓄積が起きやすいので、支援を優先的に考える必要がある場合があります。

気づくための観察例
  • 好き嫌いによる食べ残しが多くないか。
  • 物資の配給のアナウンスがあっても、反応が遅かったり、どこに行っていいかわからず困っているようなことがないか。
  • 耳ふさぎや目閉じなど、刺激が多くて苦しそうな表情をしていないか。
気づくための質問例
  • 食べられない食材がありましたか?
  • 配給に並ぶ場所がわかりましたか?
  • 他の場所(避難所内外)へ移動したいという希望はありますか?

家族の状態の確認

 災害の影響で子どもから家族が離れられなくなる場合や、避難所の中で理解者が得られない場合などに、発達障害のある人の家族のストレスは高まります。本人の支援を一番長い時間担当するのは家族であり、家族のサポートを迅速に行うことは効率的といえます。

必要になる場面
  • 多動や衝動的な行動、奇声やパニック、こだわり行動などがあって、家族が本人との対応に追われている場合。
  • 子どもの行動のことで、周囲の避難所にいる人に理解や協力を得られずに孤立している場合。
家族への具体的な声かけ
  • 一日の中で、どのような時間が一番大変ですか?
  • どの場所で大変さを感じますか? 

周囲に対応に協力してくれる人がいるかどうかの確認

 発達障害のある人は、一人ひとりの健康状態、ストレスの蓄積につながる状況などが個々様々で、対応方法が見つけにくいことがあります。個別的な配慮が必要になる場合は、周囲に本人をよく知っている人がいるか、その人は対応に協力してもらえそうか確認しておく必要があります。

必要になる場面
  • トイレの場所や食事の時間など、頻繁に会場責任者のところに質問に来る人がいた場合。
  • 周囲と全くかかわらない人がいる、発達障害のある人が繰り返し叱られているなど、集団の大多数の動きとは違う状態を示している場合。
具体的な声かけ
  • (発達障害のある人に)困ったときに、相談できそうな方は近くにいますか? 普段はどんな人に相談していますか?
  • (その他、周囲の人に)普段の様子をご存じの方はいますか? 対応に協力していただける方はいますか?