国リハニュース

第372号(令和5年春号)特集

特集『小児筋電義手の普及』

上肢形成不全と義手診療の概要

自立支援局長 芳賀 信彦

 小児筋電義手の診療は、当センターが力を入れている取り組みの一つです。ここでは、対象となる上肢形成不全と、診療における筋電義手の位置付けについて説明します。

1 上肢形成不全とは

 「上肢」とは肩から指先までの全体を指す言葉です。胎児の上肢は、受精後7週までかけて形成されます。この間に何らかの原因で上肢の組織がうまく形成されなかったり、これ以降出産までに一旦形成された上肢に傷害が及ぶと、上肢形成不全と呼ばれる状態で赤ちゃんが生まれます。上肢形成不全の程度は、肩から先が全くない状態から指1本の先端のみがない状態まで幅が広いです。またパターンも多様で、手首から先のすべてが形成されない状態(図1a)や、肘から先の親指側の組織だけがうまく形成されず手首が曲がっている状態(図1b)などがあります。

 日本では上肢形成不全の赤ちゃんが、1万出生当たり約3.4人生まれており、近年の出生数を考えると、年間300人弱になります。このうち義手の対象となりうるのは50人程度です。成人では外傷や病気で上肢を切断した場合に義手が用いられますが、上肢を切断する小児は極めて少ないです。

図1a 手首から先のすべてが形成されない状態のX線写真

図1a

図1b 肘から先の親指側の組織だけがうまく形成されず手首が曲がっている状態のX線写真

図1b

2 義手診療と筋電義手

 上肢形成不全の小児は日常生活で不自由を感じるでしょうか。両側の形成不全では不自由がとても大きく、人の助けを借りる機会が多いです。片側だけの形成不全では両側に比べ不自由はずっと少ないですが、両手で物を持つ、紐を結ぶ、タオルを絞るといった日常生活での動作の他、学校生活では図工や家庭科、音楽で不都合があると報告されています。そこで義手を使うことで、自分でできる動作を増やすことを考えますが、日本ではまだ義手をつけている上肢形成不全の小児は少ない状況です。

 当センターでは四肢形成不全の小児に対する義手や義足の診療のために、2015年に「お子さま外来」を開設し、2021年には「四肢形成不全外来」に改称しました。上肢形成不全の小児が外来を初めて受診すると、われわれは義手をつけなくてもできること、義手をつけるとできるようになること、義手をつけても難しいこと、をご両親にまずお話しし、続いて義手の種類と実際の製作について、費用や支給の制度を含めて説明しています。ご両親は筋電義手に期待して受診することが多いのですが、装飾用義手や能動義手にもメリットがあります。小児の装飾用義手の中には成人用と異なり、外見よりも機能を優先し、反対の手で物を挟んだり握らせてあげることができ、また強い力をかけても破損しにくいものがあります。これを用いて両手を使う動作に慣れ、状況に応じて能動義手や筋電義手の訓練に進んでいきます。筋電義手では、残っている筋肉を自身で収縮することによって皮膚の表面に生じる電気信号を拾って、義手の手指を動かします。この操作は難しいので、時間をかけて訓練を進める必要があります。全ての小児が筋電義手を使いこなせるようになるわけではないのですが、これが使えなくても他の義手で日常生活を少しでも送りやすくするのが、われわれの役割であると考えています。

3 小児義手診療のこれから

 成人が使う筋電義手の機能は、著しく進歩する一方、価格も高くなってきています。やがてこの技術が小児の筋電義手にも導入されると思います。われわれは新しい技術を導入しながら、一人一人に適切に対応した診療を心掛けていきたいと考えています。