国リハニュース

第372号(令和5年春号)特集

特集『小児筋電義手の普及』

小児筋電義手の訓練

病院 リハビリテーション部 作業療法 作業療法士長 野月 夕香理

 当センターでは、上肢形成不全の小児に対して、発達段階に応じて義手の装着・操作、身辺動作や運動などの訓練を行っています。訓練ではいろいろな義手を試しながら、日常生活や学校生活の中でできることを増やしていきます。ここでは、筋電義手の訓練を中心に紹介します。

1 訓練の内容

 最初は装飾用義手をつけることに慣れ、ハイハイなどで義手を使って体を支える(図1)、玩具などを両手で持って遊んだりすることで、バランスのよい姿勢や身体のイメージ作りを行います。月齢に応じて、義手で物を押さえる・つかむなど両手を使う動作の機会を増やしていきます。義手をつけていられるようになったら、家庭や保育園、幼稚園など生活の場で使えるように貸し出しします。徐々に筋電義手の操作に向けて、筋分離訓練も開始します。並行して、着替えなどの身辺動作訓練、マット運動や鉄棒などの運動も取り入れ、発達を促していきます。運動では作業用義手をつけることもあります。また、保育園や幼稚園、学校で与えられる課題への工夫も一緒に考えていきます。

①筋分離訓練
 筋電義手は腕の筋肉を動かして操作します。機器を使って筋の反応が高い場所を探し電極の位置を決めます。筋電ハンドを開いたり、閉じたりする操作を行うためには、十分な筋肉の動きと2つの筋肉を分けて動かす必要があり、繰り返し訓練します。この訓練は小児にとっては飽きやすいため、興味を持ってもらえるように改造した玩具(図2)も使いながら行います。

②筋電義手訓練
 筋電義手は重量があり、つけるのを嫌がる小児もいます。遊びの中で義手をつけ、重さに慣れてもらいます。義手がつけられるようになったら、電動ハンドの開く、閉じる動きに合わせて、物を持つ、はなす動作を繰り返し行います。遊びや生活の中で義手を使い、両手を使う動作や物をもっている動作の体験を増やしていきます。例えば、工作では義手で紙を持ちながらはさみを使う(図3)、義手でスティック糊を持ちキャップを開けるなど、色々な工程で義手を使って、義手の操作性を向上させていきます。就学前には、学校生活を想定してノートを押さえる、教科書を持つ、ランドセルに道具を入れる、給食のお盆をもつ(図4)などの動作の練習も行います。
 義手の操作が十分にできるようになったら、支給に向けての手続きを進めていきます。

図1 義手をつけてのハイハイの写真

図1 義手をつけてのハイハイ

図2 筋分離訓練で使用している玩具の写真

図2 筋分離訓練で使用している玩具。筋分離運動が出来ると電車が前進または後退する。 

図3 はさみ操作の写真

図3 はさみ操作

図4 お盆をもっている写真

図4 お盆をもつ

2 今後の展望

 小児義手の訓練が出来る施設は限られており、当センターには遠方から来られている方もいます。小児が義手を使い続けるためには、定期的なフォローアップ、地域社会の理解が重要だと考えます。成長に応じて適切なサポートが得られるように各地に対応可能な施設が増えることが望まれます。今後も小児が希望する動作、活動が少しでも行えるような支援、小児義手の普及に向けての活動を行っていきたいと思います。