国リハニュース

第372号(令和5年春号)特集

特集『小児筋電義手の普及』

小児筋電義手の支給制度と研修会

企画・情報部 情報システム課 支援機器イノベーション情報・支援室 支援機器評価専門官 山﨑 伸也

 先天性上肢形成不全の小児が筋電義手を必要とした時、製作、訓練、資金等において、様々な懸案事項があります。補装具費支給制度においては、筋電義手の製作および装用訓練へのアクセスをより良くするための体制整備が進められています。ここでは、小児筋電義手に関する制度の整備状況と研修会について説明します。

1 筋電義手を扱う制度

 日本で筋電義手が法制度に組み込まれたのは労災補償保険法が最初です。昭和54年度に両側上肢切断者に63万円以下の筋電義手の適応が認められたのを皮切りに、33年後の平成25年度には対象が片側上肢切断者にも広げられました。障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)いわゆる障害者総合支援法では、最近まで筋電義手は特例補装具という扱いでしたが、令和3年度に制度内での支給が認められるようになりました。

 先天性上肢形成不全の小児はお住まいの市町村の窓口に申請することで、障害者総合支援法の補装具費支給制度による審査を経て小児筋電義手製作が認められます。

 小児筋電義手一式の価格は150万円程度になりますが、制度を利用すると利用者負担額は原則1割(1割負担の上限は37,200円)で済みます。筋電義手は一度製作したからといって一生使えるわけではありません。身体と筋電義手の接合部に当たる部分をソケット、ソケットに収める部位を断端と呼びますが、特に小児は著しく身体が成長する時期でもあり、短期間で不適合を起こしやすくなります。また電子機器の故障などもあり、頻繁な修理や作り替えが必要です。筋電義手の継続使用に制度利用は欠かせないと言えるでしょう。

 先天性上肢形成不全の小児においては、両手で作業する経験がないが故の特別な訓練が必要になります。大人の事故等の外傷による切断と大きく異なる点です。先天性上肢形成不全の小児に対して行う筋電義手装用訓練は未だ制度で対応できていないところであり、厚生労働省が補装具装用訓練等支援事業として財政支援を行なっています。

2 筋電義手に関する2つの研修会

 先天性上肢形成不全の小児に筋電義手を使ってもらうために必要な知識や技術の習得を目的として、広く小児筋電義手について理解してもらうための基礎研修会と、専門家に必要な訓練のノウハウをお伝えする専門職養成研修会の2つを開催しています。

 1つ目の「小児筋電義手基礎研修会」は、小児筋電義手に関わる全ての人の知識を深め情報を共有するために市町村の職員を始め幅広い受講生を募っており、平成30年度から開催され、これまでに230名が参加しています。

 2つ目の「小児筋電義手専門職養成研修会」は訓練を中心とした研修会で、処方や判定を行う医師、訓練を行う作業療法士、製作や調整を行う義肢装具士、訓練用玩具や手先具の開発を行うエンジニア等を対象に開催されています。筋電義手の構造や電極位置決定の方法、訓練で使う玩具の選択と調整、成人用の筋電義手に移行するにあたっての留意点など、現場のノウハウを体験で学んでもらえるよう、対面式の研修会として令和3年度から開始され、これまでに31名が受講しています。

 これら2つの研修会の総受講者数261名は、全国の都道府県から集まっています(図1)。これからも、研修会の受講者が増え、日本のどの地域においても必要としているお子さんが筋電義手を製作、訓練を受けられるようになって欲しいと願っています。

図1 各都道府県の小児筋電義手研修会参加者数を色で示した日本地図