国リハニュース

第373号(令和5年秋号)特集

特集『聞こえのリハビリテーションとコミュニケーション支援』

聴覚障害の診療とリハビリテーション(成人を中心に)

病院 副院長 石川 浩太郎

 当院の耳鼻いんこう科では、特に聴覚障害と言語障害(吃音、言語発達遅滞、構音障害)に力を入れて診療しています。聴覚障害の身体障害者手帳を有する方は全国で33万人あまりいて、この他に障害者手帳の認定に至らない軽度・中等度難聴の患者数を加えると多くの方々が難聴に悩まされています。手術や投薬で治療が可能な疾患もありますが、多くの場合は回復が見込めない聴覚障害となります。年齢層は乳幼児から高齢者まで幅広いのが聴覚障害の特徴です。私からは成人の方々への対応を紹介します。小児については次の項で言語聴覚士から紹介したいと思います。

1 成人の難聴に関するトピックス

 大きな話題として2つ。一つは聴覚障害と認知症の関連です。海外の報告で、難聴を放置していると他者とのコミュニケーションに支障が生じ社会性が低下することが影響するなどして認知症発症のリスクが約2倍高くなり、一方、早期に補聴器などで対応すると認知症の発症リスクが低下するという報告がありました。

 もう一つの話題はヘッドホン・イヤホン難聴です。世界保健機関(WHO)から12-35歳までの11億人の若者が携帯型音楽プレイヤーやスマートホンなどによる音響性障害のリスクにさらされていることを警告しています。WHOでは1週間あたり成人では80dBを40時間、小児では75dBを40時間までとしています。一般的には再生機器の出せる最大ボリュームの60%以下とし、連続使用は1時間以内として必ず10分の休憩を取ると覚えてください。

2 当院での対応

 聞こえづらいために当院を受診した場合、聴力レベルを測定する純音聴力検査を行います。言葉の聞き取り検査を追加する場合もあります。診察では治療可能な疾患かどうかの判断を行います。治療が難しい難聴で生活に支障がある場合は、まず補聴器適合を行います。この際、身体障害者手帳の認定の可否についても判断します。さらに難聴の正確な原因診断が必要な場合は、画像検査や難聴の原因遺伝子を調べる検査などを行います。補聴器を合わせる専門外来は木曜午後と金曜午後に設定されています。補聴器はただ着ければ聞こえるのではなく「聞こえのリハビリテーション」として考える必要があります。このため一定期間の調整と訓練が必要です。調整期間中の補聴器は貸し出し扱いとなり、補聴器の使用が決定した段階で購入となります。

 補聴器を用いても聞き取れないような高度・重度難聴の場合は人工内耳の使用を考慮します。医師や言語聴覚士から人工内耳の説明を受けて納得された場合は、手術に必要な検査を行った上で手術が可能な医療機関に紹介します。術後は当院に受診してもらい、人工内耳で聞き取りができるように聴覚訓練を行います。

3 おわりに

 聞こえに不安がある方は紹介状不要ですので、遠慮なく受診をしてください。聞こえを快適にして、より充実した毎日が過ごせるようお手伝いしたいと考えています。​​​​​​​