国リハニュース

第373号(令和5年秋号)特集

特集『聞こえのリハビリテーションとコミュニケーション支援』

聴覚障害のリハビリテーションについて(小児)

病院 リハビリテーション部 言語聴覚療法 言語聴覚士長  大畑 秀央
言語聴覚士  安部 知華

1 はじめに

 当院は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の新生児聴覚スクリーニング検査後の精密聴力検査機関に指定されており、0歳の乳幼児から、小児の難聴に対応し早期発見・早期療育に取り組んでいます。耳鼻いんこう科と言語聴覚療法部門が協働して難聴の疑いのある小児の診断を行い、療育・教育施設と連携しながら、難聴児とご家族への支援を行っています。

 難聴の疑いのある小児が当院を受診された場合、まずは耳鼻いんこう科の一般外来で、聴力検査と医師の診察を受けていただきます。聴力検査といっても、子どもが楽しんで取り組めるよう、年齢や発達に合わせた方法で行います(写真1)。診察の結果、言語聴覚士の対応が必要な場合には、小児難聴外来で医師と言語聴覚士が連携して支援を開始し、聴力の精査、補聴器の調整・装用指導、コミュニケーション指導などを行っていきます。長期にわたる支援が必要な場合には、言語聴覚療法での個別指導に移行していきます。

 小児難聴例の場合、発見時期、難聴の程度、重複障害の有無によって支援の内容は異なり、個別の対応が基本です。難聴児の多くは新生児聴覚スクリーニングにて発見され早期介入ができるようになった一方で、ご家族は慣れない子育てに加え、難聴児を育てることへの不安や将来への不安を強く訴えることがあります。まずはご家族の不安を受け止め、親子の愛着形成がなされるようサポートすることを第一に考えています。ここではいくつかの例を取り上げ、支援の特徴と工夫点を紹介します。

子どもの聴力検査の写真

写真1 聴力検査の場面

2 軽度・中等度難聴例

 軽度・中等度難聴例の場合は生活音に反応があるため、ご家族が難聴を受け入れがたく補聴器装用までに時間を要することがあります。丁寧な説明に加え、検査場面の共有や難聴疑似体験を行い補聴器の有用性を理解できるよう工夫しています。聴覚を活用するには正しい聴力検査と補聴器の適合が重要です。お子さんの発達段階に合わせた聴力検査を繰り返し行いながら、補聴器を調整し生活場面で活用できているかご家族に記録をお願いし、記録や訓練場面での音や音声への反応をみながら調整をしていきます。補聴器の調整の他に、親子のコミュニケーション支援、言語指導、関係機関との連携も行います。通園中の場合は園と定期的に連絡を取り合い補聴器や基本的な関わり方について説明する機会を作っています。

3 人工内耳装用例

 人工内耳の装用を検討する重度難聴例では、子どもからの反応が乏しく見え親子の関わりが希薄になりやすいです。聴覚だけでなく視覚や触覚など他の感覚も併用し、お子さんにわかる手段で繰り返し丁寧に関わるモデルを見せ、自宅でも実行してもらうよう導きます。人工内耳を検討する場合は、装用している成人や小児のご家族と交流する機会を設け、ご家族が手術の有無を判断するための材料が得られように心がけています。手術が決定した場合は、本人とご家族が安心して手術・入院生活が送れるよう手術病院と連携を行い、術後は人工内耳の調整と聴覚学習、言語指導(写真2)、関係機関との連携を行います。難聴発見後から継続して支援をしているので、お子さんと信頼関係が築けており、人工内耳の調整がスムーズに行えます。

言語指導で使用した絵日記の写真

写真2 言語指導で使用した絵日記

4 一側性難聴例

 当院では本人の希望を確認し、難聴がある側の耳に補聴器適合を行っています。特に、英語の授業や教科担当制になる中学生以上のお子さんで希望が増えています。必要な場面のみ装用する方が多く、自分で補聴器の要否を判断し管理できる力も必要になります。効果を実感できていても周囲の目が気になり装用を中止するケースもあり、思春期ならではの課題が見受けられます。本人とご家族の支援と共に学校へ情報提供し、学校関係者(生徒・教員)の理解が得られるように支援しています。

5 重複障害例

 重複した障害やその程度により個人差が大きく、より個別的な対応が必要になります。特に自閉スペクトラム症のケースでは、触覚過敏や聴覚過敏を合わせもっていたり、新しい取り組みに柔軟に応じることが難しい場合があります。当院では訓練の流れを写真で予告し、本人が見通しを持ち安心して訓練に参加できるよう工夫しています(写真3)。イヤモールドを作成する際は、YouTubeで公開されている作成動画を見せ、見通しを持たせ、時間をかけて準備をしていきます。検査や訓練などの限られた環境下の反応だけを見るのではなく、家庭や所属機関とも密に連携を行い情報共有し、補聴器の調整は慎重に緩やかに行います。

重複障害例で使用している予告カードの写真

写真3 重複障害例で使用している予告カード

6 おわりに

 補聴器や人工内耳を装用し機器を通した音を有効活用するためには、本人への支援と共にご家族や所属機関の理解と協力が必須です。今後もお子さんとご家族の希望を聞きながら、所属機関と連携し、より良いリハビリテーションが提供できるよう努力して参ります。