国リハニュース

第373号(令和5年秋号)特集

特集『聞こえのリハビリテーションとコミュニケーション支援』

聴覚障害者のICT利活用に役立つ情報提供資材の開発

研究所 脳機能系障害研究部 高次脳機能障害研究室長 幕内 充

 新型コロナウイルスの流行によって、会社に出勤し、密集した状態で仕事をするこれまでの働き方が見直され、各自が自宅で仕事をするリモートワークが急速に普及しました。それと並行してZOOMなどのオンラインビデオ会議システムが我が国でも良く利用されるようになりました。新しい通信ツールの導入によって便利になることが期待されるわけですが、新しい道具に慣れるまで却って不便を感じることもあるかも知れません。

 しかしこのような変化は避けることは出来ません。近年、コンピュータの性能の急速な進歩によって大量のデータが集められるようになり、またそのデータを分析する人工知能も恐るべき能力を発揮するようになってきました。その一つの成果が音声文字化です。話している内容をその場でほとんど遅れることもなく文字化するアプリケーションが無料で使えるようになりました。オンラインビデオ会議システムと音声文字化ツールを組み合わせることによって聞こえに問題を持っている聴覚障害者の方々は大きなメリットを享受できる可能性があると考えられます。ただ、聴覚障害者の中にはスマートフォンやコンピュータなどを使った通信技術(ICT, Information and Communication Technology)の利用を苦手としている方もおり、コロナ禍で実際どのような状況であったのかは分かりませんでした。

 そこで我々はAMED研究「COVID-19流行下における聴覚障害者のICT利活用の実態調査及びその成功例をもとにした情報提供資材の開発」によって、実態を把握するためのオンライン・アンケートとインタビュー調査を行いました。さらに、インタビューで知りあうことが出来た、ICTを使いこなして聴覚障害を乗り越えて働いている方々からノウハウを教えてもらい、それを広く知らせるための情報提供資材を開発しました。

 情報提供資材は「ろうなんサポネット」(https://dhir.jp/kb/)という名前でインターネットで公開しています。内容はまだ拡充中ですが、音声認識ツールについては詳細な情報を提供しています。またホームページにはアンケート結果へのリンクもあります。

 今年8月には国リハにおいて、ろうなんサポネットの公開を記念したイベントも開催しました。イベントにはろう者・難聴者の方々が主に参加されました。まず情報提供資材の作成を主導した宮城教育大学の松崎丈教授が、背景や目的をビデオ講演で説明しました。次に航空会社に勤務している森本健氏が聴覚障害者としてロールモデルの捉え方についての講演を行いました。講演の最後は実際の職場でのICT活用について社会福祉士の岩山誠氏と大森めぐみ氏がお話をしました。講演の後は演者と参加者の情報交換会を行い具体的な問題点の共有や解決法の議論を行いました。

 今後は「ろうなんサポネット」を広く知ってもらうためにオンライン講演会を行う予定です。ご関心のある方は是非ご視聴ください。どうぞよろしくお願いいたします。

ろうなんサポネットホームページ

ろうなんサポネットホームページの写真

イベントの様子

松崎丈氏によるビデオ講演の写真

松崎丈氏

森本健氏による講演の写真

森本健氏

岩山誠氏・大森めぐみ氏による講演の写真

岩山誠氏・大森めぐみ氏(社会福祉士)