国リハニュース

第374号(令和6年春号)特集

特集『高次脳機能障害 リハビリテーション医療と障害福祉サービス』

高次脳機能障害支援 地域支援ネットワークの構築と充実

企画・情報部 高次脳機能障害情報・支援センター長 浦上 裕子

 平成13年度に高次脳機能障害支援モデル事業が開始されてから、20年余りが経過しました。当時、「事故などによって脳損傷をきたし、その後遺症に悩む脳外傷者の多くは既存の医療や福祉制度では適切な治療や支援が得られず制度の谷間におかれている。身体障害としても知的障害としても救済されず、施設やヘルパーなど福祉制度の対象にならず、患者と家族がその負担を担っている。高次脳機能障害にとりくむ医療機関やリハビリテーション施設がない。」という切実な当事者の声が、衆議院質問主意書として平成10年9月29日に第143回国会に提出されたことが事業開始の発端です。国会に出された要望には①脳外傷者の実態調査を行い、②脳外傷者・高次脳機能障害者に対する医学的・職業的・社会的リハビリテーションを構築し、③脳外傷者の障害実態に沿った障害認定を確立すること、④脳外傷者は65歳にならないと介護保険サービスを受けらないため、福祉サービスの充実を求めることなどが、要点としてあげられています1)

 これを受けて、高次脳機能障害支援モデル事業が開始され、その成果として現在では診断基準と標準的なリハビリテーション医療が確立され、急性期から回復期・生活期と連続したケアが受けられるようになりました。
 平成18年度より「高次脳機能障害支援普及事業」が都道府県地域生活支援事業の必須事業として開始されています。都道府県に支援拠点機関を置き、高次脳機能障害者に対する専門的な相談支援、関係機関との支援ネットワークを充実させ、高次脳機能障害に対する研修などを行い、適切な支援が提供される体制を整備することを目的としています。その後、国立障害者リハビリテーションセンターに高次脳機能障害情報・支援センターが設置され、平成25年度には失語や他の合併障害が加えられ、「高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業」となりました。支援拠点機関は全国120カ所(リハビリテーションセンター、大学病院、県立病院など)となっています(図1)。

全国相談支援体制の整備図

図1 全国の相談支援体制の整備状況

 令和5年度から新規に「高次脳機能障害及びその関連障害に対する地域支援ネットワーク構築促進事業」が地域生活促進支援事業として開始されました。実施主体は都道府県にあり、高次脳機能障害の診断およびその特性に応じた支援サービスの提供を行う協力医療機関(医療機関・リハビリテーション機関など)及び専門支援機関(就労支援機関、教育機関など)を確保・明確化し、地域の関係機関が相互に連携・調整を図り、当事者やその家族などの支援に資する情報提供を行う支援ネットワークを構築し、切れ目のない充実した支援体制を促進することが求められています。高次脳機能障害情報・支援センターウェブサイトでは「高次脳機能障害相談窓口」を改修して47都道府県ごとのページを作成し、医療機関情報、高次脳機能障害に対応する支援機関情報、高次脳機能障害関連情報を掲載しております。(http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/soudan/)。

1)中島八十一. 高次脳機能障害の勃興と将来展望 新興医学出版社2023